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〘178㌻〙

第1章

1 太初はじめに言ことばあり、言ことばは神かみと偕ともにあり、言ことばは神かみなりき。 2 この言ことばは太初はじめに神かみとともに在あり、 3 萬よろづの物ものこれに由よりて成󠄃なり、成󠄃なりたる物ものに一ひとつとして之これによらで成󠄃なりたるはなし。 4 之これに生命いのちあり、この生命いのちは人ひとの光ひかりなりき。 5 光ひかりは暗󠄃黑くらきに照てる、而しかして暗󠄃黑くらきは[*]之これを悟さとらざりき。[*或は「之に勝󠄃たざりき」と譯す。] 6 神かみより遣󠄃つかはされたる人ひといでたり、その名なをヨハネといふ。 7 この人ひとは證あかしのために來きたれり、光ひかりに就つきて證あかしをなし、また凡すべての人ひとの彼かれによりて信しんぜん爲ためなり。 8 彼かれは光ひかりにあらず、光ひかりに就つきて證あかしせん爲ために來きたれるなり。

9 もろもろの人ひとをてらす眞󠄃まことの光ひかりありて、世よにきたれり。 10 彼かれは世よにあり、世よは彼かれに由よりて成󠄃なりたるに、世よは彼かれを知しらざりき。 11 かれは己おのれの國くににきたりしに、己おのれの民たみは之これを受うけざりき。 12 されど之これを受うけし者もの、即すなはちその名なを信しんぜし者ものには、神かみの子ことなる權けんをあたへ給たまへり。 13 斯かゝる人ひとは血脈󠄄ちすぢによらず、肉󠄁にくの欲ねがひによらず、人ひとの欲ねがひによらず、ただ神かみによりて生うまれしなり。 14 言ことばは肉󠄁體にくたいとなりて我われらの中うちに宿やどりたまへり、我われらその榮光えいくわうを見みたり、實げに父󠄃ちちの獨子ひとりごの榮光えいくわうにして恩惠めぐみと眞󠄃理まこととにて滿みてり。 15 ヨハネ彼かれにつきて證あかしをなし、呼よばはりて言いふ『「わが後のちにきたる者ものは我われに勝󠄃まされり、我われより前󠄃さきにありし故ゆゑなり」と、我わが曾かつていへるは此この人ひとなり』 16 我われらは皆みなその充みち滿みちたる中うちより受うけて、恩惠めぐみに恩惠めぐみを加くはへらる。
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17 律法おきてはモーセによりて與あたへられ、恩惠めぐみと眞󠄃理まこととはイエス・キリストによりて來きたれるなり。 18 未いまだ神かみを見みし者ものなし、ただ父󠄃ちちの懷裡ふところにいます獨子ひとりごの[*]神かみのみ之これを顯あらはし給たまへり。[*異本「の神」なし。]

19 さてユダヤ人びと、エルサレムより祭司さいしとレビ人びととをヨハネの許もとに遣󠄃つかはして『なんぢは誰たれなるか』と問とはせし時とき、ヨハネの證あかしは斯かくのごとし。 20 乃すなはち言いひあらはして諱いまず『我われはキリストにあらず』と言いひあらはせり。 21 また問とふ『さらば何なに、エリヤなるか』答こたふ『然しからず』問とふ『かの預言者よげんしゃなるか』答こたふ『いな』 22 ここに彼かれら言いふ『なんぢは誰たれなるか、我われらを遣󠄃つかはしし人々ひとびとに答こたへ得うるやうに爲せよ、なんぢ己おのれにつきて何なにと言いふか』 23 答こたへて言いふ『我われは預言者よげんしゃイザヤの云いへるが如ごとく「主しゅの道󠄃みちを直なほくせよと、荒野あらのに呼よばはる者ものの聲こゑ」なり』 24 かの遣󠄃つかはされたる者ものは、パリサイ人びとなりき。 25 また問とひて言いふ『なんぢ若もしキリストに非あらず、またエリヤにも、かの預言者よげんしゃにも非あらずば、何なに故ゆゑバプテスマを施ほどこすか』〘130㌻〙 26 ヨハネ答こたへて言いふ『我われは水みづにてバプテスマを施ほどこす。なんぢらの中うちに汝なんぢらの知しらぬもの一人ひとりたてり。 27 即すなはち我わが後のちにきたる者ものなり、我われはその鞋くつの紐ひもを解とくにも足たらず』 28 これらの事ことは、ヨハネのバプテスマを施ほどこしゐたりしヨルダンの向むかひなるベタニヤにてありしなり。

29 明あくる日ひヨハネ、イエスの己おのが許もとにきたり給たまふを見みていふ『視みよ、これぞ世よの罪つみを[*]除のぞく神かみの羔羊こひつじ。[*或は「負󠄅ふ」と譯す。] 30 われ曾かつて「わが後のちに來きたる人ひとあり、我われにまされり、我われより前󠄃さきにありし故ゆゑなり」と云いひしは、此この人ひとなり。 31 我われもと彼かれを知しらざりき。然されど彼かれのイスラエルに顯あらはれんために、我われきたりて水みづにてバプテスマを施ほどこすなり』 32 ヨハネまた證あかしをなして言いふ『われ見みしに御靈みたま、鴿はとのごとく天てんより降󠄄くだりて、その上うへに止とゞまれり。
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33 我われもと彼かれを知しらざりき。然されど我われを遣󠄃つかはし、水みづにてバプテスマを施ほどこさせ給たまふもの、我われに吿つげて「なんぢ御靈みたまくだりて或ある人ひとの上うへに止とゞまるを見みん、これぞ聖󠄃せい靈れいにてバプテスマを施ほどこす者ものなる」といひ給たまへり。 34 われ之これを見みて、その神かみの子こたるを證あかしせしなり』

35 明あくる日ひヨハネまた二人ふたりの弟子でしとともに立たちて、 36 イエスの步あゆみ給たまふを見みていふ『視みよ、これぞ神かみの羔羊こひつじ』 37 かく語かたるをききて二人ふたりの弟子でしイエスに從したがひゆきたれば、 38 イエス振反ふりかへりて、その從したがひきたるを見みて言いひたまふ『何なにを求もとむるか』彼かれ等らいふ『ラビ(釋ときていへば師し)いづこに留とゞまり給たまふか』 39 イエス言いひ給たまふ『きたれ、然さらば見みん』彼かれら往󠄃ゆきてその留とゞまりたまふ所󠄃ところを見み、この日ひともに留とゞまれり、時ときは[*]第十時だいじふじごろなりき。[*今の午後四時頃ならん。] 40 ヨハネより聞ききてイエスに從したがひし二人ふたりのうち一人ひとりは、シモン・ペテロの兄弟きゃうだいアンデレなり。 41 この人ひとまづ其その兄弟きゃうだいシモンに遇󠄃あひ『われらメシヤ(釋とけばキリスト)に遇󠄃あへり』と言いひて、 42 彼かれをイエスの許もとに連󠄃つれきたれり。イエス之これに目めを注とめて言いひ給たまふ『なんぢはヨハネの子こシモンなり、汝なんぢケパ(釋とけばペテロ)と稱󠄄となへらるべし』

43 明あくる日ひイエス、ガリラヤに往󠄃ゆかんとし、ピリポにあひて言いひ給たまふ『われに從したがへ』 44 ピリポはアンデレとペテロとの町まちなるベツサイダの人ひとなり。 45 ピリポ、ナタナエルに遇󠄃あひて言いふ『我われらはモーセが律法おきてに錄しるししところ、預言者よげんしゃたちが錄しるしし所󠄃ところの者ものに遇󠄃あへり、ヨセフの子こナザレのイエスなり』 46 ナタナエル言いふ『ナザレより何なにの善よき者ものか出いづべき』ピリポいふ『來きたりて見みよ』 47 イエス、ナタナエルの己おのが許もとにきたるを見み、これを指さして言いひたまふ『視みよ、これ眞󠄃まことにイスラエル人びとなり、その衷うちに虛僞いつはりなし』〘131㌻〙 48 ナタナエル言いふ『如何いかにして我われを知しり給たまふか』イエス答こたへえて言いひたまふ『ピリポの汝なんぢを呼よぶまへに我われなんぢが無花果いちぢくの樹きの下したに居をるを見みたり』
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49 ナタナエル答こたふ『ラビ、なんぢは神かみの子こなり、汝なんぢはイスラエルの王わうなり』 50 イエス答こたへて言いひ給たまふ『われ汝なんぢが無花果いちぢくの樹きの下したにをるを見みたりと言いひしに因よりて信しんずるか、汝なんぢこれよりも更󠄃さらに大おほいなる事ことを見みん』 51 また言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、天てんひらけて、人ひとの子このうへに神かみの使󠄃つかひたちの昇のぼり降󠄄くだりするを汝なんぢら見みるべし』

第2章

1 三日みっかめにガリラヤのカナに婚禮こんれいありて、イエスの母ははそこに居をり、 2 イエスも弟子でしたちと共ともに婚禮こんれいに招まねかれ給たまふ。 3 葡萄酒ぶだうしゅつきたれば、母はは、イエスに言いふ『かれらに葡萄酒ぶだうしゅなし』 4 イエス言いひ給たまふ『をんなよ、我われと汝なんぢとなにの關係かゝはりあらんや、我わが時ときは未いまだ來きたらず』 5 母はは、僕しもべどもに『何なににても其その命めいずる如ごとくせよ』と言いひおく。 6 彼處かしこにユダヤ人びとの潔󠄄きよめの例れいにしたがひて四し五ご斗と入いりの石甕いしがめ六個むつならべあり。 7 イエス僕しもべに『水みづを甕かめに滿みたせ』といひ給たまへば、口くちまで滿みたす。 8 また言いひ給たまふ『いま汲󠄂くみ取とりて饗宴ふるまひ長がしらに持もちゆけ』乃すなはち持もちゆけり。 9 饗宴ふるまひ長がしら、葡萄酒ぶだうしゅになりたる水みづを甞なめて、その何處いづこより來きたりしかを知しらざれば(水みづを汲󠄂くみし僕しもべどもは知しれり)新郎はなむこを呼よびて言いふ、 10 『おほよそ人ひとは先まづよき葡萄酒ぶだうしゅを出いだし、醉ゑひのまはる頃ころほひ劣おとれるものを出いだすに、汝なんぢはよき葡萄酒ぶだうしゅを今いままで留とめ置おきたり』 11 イエス此この第一だいいちの徴しるしをガリラヤのカナにて行おこなひ、その榮光えいくわうを顯あらはし給たまひたれば、弟子でしたち彼かれを信しんじたり。

12 この後のちイエス及およびその母はは・兄弟きゃうだい・弟子でしたちカペナウムに下くだりて、そこに數󠄄日すにち留とゞまりたり。
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13 斯かくてユダヤ人びとの過󠄃越すぎこしの祭まつりちかづきたれば、イエス、エルサレムに上のぼり給たまふ。 14 宮みやの內うちに牛うし・羊ひつじ・鴿はとを賣うるもの、兩替りゃうがへする者ものの坐ざするを見みて、 15 繩󠄂なはを鞭むちにつくり、羊ひつじをも牛うしをもみな宮みやより逐󠄃おひ出いだし、兩替りゃうがへする者ものの金かねを散ちらし、その臺だいを倒たふし、 16 鴿はとをうる者ものに言いひ給たまふ『これらの物ものを此處ここより取とり去され、わが父󠄃ちちの家いへを商賣あきなひの家いへとすな』 17 弟子でしたち『なんぢの家いへをおもふ熱心ねっしんわれを食󠄃くらはん』と錄しるされたるを憶おもひ出いだせり。〘132㌻〙 18 ここにユダヤ人びとこたへてイエスに言いふ『なんぢ此これ等らの事ことをなすからには、我われらに何なにの徴しるしを示しめすか』 19 答こたへて言いひ給たまふ『なんぢら此この[*]宮みやをこぼて、われ三日みっかの間あひだに之これを起󠄃おこさん』[*或は「聖󠄃所󠄃」と譯す。] 20 ユダヤ人びといふ『この[*]宮みやを建󠄄たつるには四十しじふ六ろく年ねんを經へたり、なんぢは三日みっかのうちに之これを起󠄃おこすか』[*或は「聖󠄃所󠄃」と譯す。] 21 これはイエス己おのが體からだの宮みやをさして言いひ給たまへるなり。 22 然されば死人しにんの中うちより甦よみがへり給たまひしのち、弟子でしたち斯かく言いひ給たまひしことを憶おもひ出いだして聖󠄃書せいしょとイエスの言いひ給たまひし言ことばとを信しんじたり。

23 過󠄃越すぎこしのまつりの間あひだ、イエス、エルサレムに在いますほどに、多おほくの人々ひとびとその爲なし給たまへる徴しるしを見みて御名みなを信しんじたり。 24 然されどイエス己おのれを彼かれらに任まかせ給たまはざりき。それは凡すべての人ひとを知しり、 25 また人ひとの衷うちにある事ことを知しりたまへば、人ひとに就つきて證あかしする者ものを要󠄃えうせざる故ゆゑなり。

第3章

1 爰こゝにパリサイ人びとにて名なをニコデモといふ人ひとあり、ユダヤ人びとの宰つかさなり。 2 夜よるイエスの許もとに來きたりて言いふ『ラビ、我われらは汝なんぢの神かみより來きたる師しなるを知しる。神かみもし偕ともに在いまさずば、汝なんぢが行おこなふこれらの徴しるしは誰たれもなし能あたはぬなり』 3 イエス答こたへて言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢに吿つぐ、人ひと[*]あらたに生うまれずば、神かみの國くにを見みること能あたはず』[*或は「上より」と譯す。]
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4 ニコデモ言いふ『人ひとはや老おいぬれば、爭いかで生うまるる事ことを得えんや、再ふたゝび母ははの胎たいに入いりて生うまるることを得えんや』 5 イエス答こたへ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢに吿つぐ、人ひとは水みづと靈れいとによりて生うまれずば、神かみの國くにに入いること能あたはず、 6 肉󠄁にくによりて生うまるる者ものは肉󠄁にくなり、靈れいによりて生うまるる者ものは靈れいなり。 7 なんぢら[*]新あらたに生うまるべしと我わが汝なんぢに言いひしを怪あやしむな。[*或は「上より」と譯す。] 8 風かぜは[*]己おのが好このむところに吹ふく、汝なんぢその聲こゑを聞きけども、何處いづこより來きたり何處いづこへ往󠄃ゆくを知しらず。すべて靈れいによりて生うまるる者ものも斯かくのごとし』[*原語「靈」とおなじ。] 9 ニコデモ答こたへて言いふ『いかで斯かゝる事ことどものあり得うべき』 10 イエス答こたへて言いひ給たまふ『なんぢはイスラエルの師しにして猶󠄅なほかかる事ことどもを知しらぬか。 11 誠󠄃まことにまことに汝なんぢに吿つぐ、我われら知しることを語かたり、また見みしことを證あかしす、然しかるに汝なんぢらその證あかしを受うけず。 12 われ地ちのことを言いふに汝なんぢら信しんぜずば、天てんのことを言いはんには爭いかで信しんぜんや。 13 天てんより降󠄄くだりし者もの、即すなはち人ひとの子この他ほかには、天てんに昇のぼりしものなし。 14 モーセ荒野あらのにて蛇へびを擧あげしごとく、人ひとの子こもまた必かならず擧あげらるべし。 15 すべて信しんずる者ものの彼かれによりて永遠󠄄とこしへの生命いのちを得えん爲ためなり』

16 それ神かみはその獨子ひとりごを賜たまふほどに世よを愛あいし給たまへり、すべて彼かれを信しんずる者ものの亡ほろびずして永遠󠄄とこしへの生命いのちを得えんためなり。〘133㌻〙 17 神かみその子こを世よに遣󠄃つかはしたまへるは、世よを審さばかん爲ためにあらず、彼かれによりて世よの救すくはれん爲ためなり。 18 彼かれを信しんずる者ものは審さばかれず、信しんぜぬ者ものは旣󠄁すでに審さばかれたり。神かみの獨子ひとりごの名なを信しんぜざりしが故ゆゑなり。 19 その審判󠄄さばきは是これなり。光ひかり、世よにきたりしに、人ひとその行爲おこなひの惡あしきによりて、光ひかりよりも暗󠄃黑くらきを愛あいしたり。 20 すべて惡あくを行おこなふ者ものは光ひかりをにくみて光ひかりに來きたらず、その行爲おこなひの責せめられざらん爲ためなり。 21 眞󠄃まことをおこなふ者ものは光ひかりにきたる、その行爲おこなひの神かみによりて行おこなひたることの顯あらはれん爲ためなり。[*][*二一、或は「眞󠄃を行ふ者はその行爲のあらはれん爲に光に來る、神によりて行ひたる故なり」と譯す。]
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22 この後のちイエス、弟子でしたちとユダヤの地ちにゆき、其處そこにともに留とゞまりてバプテスマを施ほどこし給たまふ。 23 ヨハネもサリムに近󠄃ちかきアイノンにてバプテスマを施ほどこしゐたり、其處そこに水みづおほくある故ゆゑなり。人々ひとびとつどひ來きたりてバプテスマを受うく。 24 ヨハネは未いまだ獄ひとやに入いれられざりしなり。 25 爰こゝにヨハネの弟子でしたちと一人ひとりのユダヤ人びととの間あひだに、潔󠄄きよめにつきて論ろん起󠄃おこりたれば、 26 彼かれらヨハネの許もとに來きたりて言いふ『ラビ、視みよ、汝なんぢとともにヨルダンの彼方かなたにありし者もの、なんぢが證あかしせし者もの、バプテスマを施ほどこし、人ひとみなその許もとに往󠄃ゆくなり』 27 ヨハネ答こたへて言いふ『人ひとは天てんより與あたへられずば、何なにをも受うくること能あたはず。 28 「我われはキリストにあらず」唯たゞ「その前󠄃まへに遣󠄃つかはされたる者ものなり」と我わが言いひしことに就つきて證あかしする者ものは、汝なんぢらなり。 29 新婦󠄃はなよめをもつ者ものは新郎はなむこなり、新郎はなむこの友ともは、立たちて新郎はなむこの聲こゑをきくとき、大おほいに喜よろこぶ、この我わが勸󠄂喜よろこびいま滿みちたり。 30 彼かれは必かならず盛󠄃さかんになり、我われは衰󠄄おとろふべし』

31 上うへより來きたるものは凡すべての物ものの上うへにあり、地ちより出いづるものは地ちの者ものにして、その語かたることも地ちの事ことなり。天てんより來きたるものは凡すべての物ものの上うへにあり。 32 彼かれその見みしところ、聞ききしところを證あかししたまふに、誰たれもその證あかしを受うけず。 33 その證あかしを受うくる者ものは、印いんして神かみを眞󠄃まことなりとす。 34 神かみの遣󠄃つかはし給たまひし者ものは神かみの言ことばをかたる、神かみ、御靈みたまを賜たまひて量はかりなければなり。 35 父󠄃ちちは御子みこを愛あいし、萬物ばんもつをその手てに委ゆだね給たまへり。 36 御子みこを信しんずる者ものは永遠󠄄とこしへの生命いのちをもち、御子みこに從したがはぬ者ものは生命いのちを見みず、反かへつて神かみの怒いかりその上うへに止とゞまるなり。〘134㌻〙

第4章

1 主しゅ、おのれの弟子でしを造󠄃つくり、之これにバプテスマを施ほどこすこと、ヨハネよりも多おほしと、パリサイ人びとに聞きこえたるを知しり給たまひし時とき、
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2 (その實じつイエス自みづからバプテスマを施ほどこししにあらず、その弟子でしたちなり) 3 ユダヤを去さりて復またガリラヤに往󠄃ゆき給たまふ。 4 サマリヤを經へざるを得えず。 5 サマリヤのスカルといふ町まちにいたり給たまへるが、この町まちはヤコブその子こヨセフに與あたへし土地とちに近󠄃ちかくして、 6 此處ここにヤコブの泉いづみあり。イエス旅󠄃路たびぢに疲つかれて泉いづみの傍かたはらに坐ざし給たまふ、時ときは[*]第六だいろく時じ頃ごろなりき。[*今の正午頃ならん。] 7 サマリヤの或ある女をんな、水みづを汲󠄂くまんとて來きたりたれば、イエス之これに『われに飮のませよ』と言いひたまふ。 8 弟子でしたちは食󠄃物しょくもつを買かはんとて町まちにゆきしなり。 9 サマリヤの女をんないふ『なんぢはユダヤ人びとなるに、如何いかなればサマリヤの女をんななる我われに、飮のむことを求もとむるか』これはユダヤ人びととサマリヤ人びととは交󠄄まじはりせぬ故ゆゑなり。 10 イエス答こたへて言いひ給たまふ『なんぢ若もし神かみの賜物たまものを知しり、また「我われに飮のませよ」といふ者ものの誰たれなるを知しりたらんには、之これに求もとめしならん、然さらば汝なんぢに活いける水みづを與あたへしものを』 11 女をんないふ『主しゅよ、なんぢは汲󠄂くむ物ものを持もたず、井ゐどは深ふかし、その活いける水みづは何處いづこより得えしぞ。 12 汝なんぢはこの井ゐどを我われらに與あたへし我われらの父󠄃ちちヤコブよりも大おほいなるか、彼かれも、その子こらも、その家畜かちくも、これより飮のみたり』 13 イエス答こたへて言いひ給たまふ『すべて此この水みづをのむ者ものは、また渇かわかん。 14 然されど我わがあたふる水みづを飮のむ者ものは、永遠󠄄とこしへに渇かわくことなし。わが與あたふる水みづは彼かれの中うちにて泉いづみとなり、永遠󠄄とこしへの生命いのちの水みづ湧󠄂わきいづべし』 15 女をんないふ『主しゅよ、わが渇かわくことなく、又󠄂またここに汲󠄂くみに來こぬために、その水みづを我われにあたへよ』 16 イエス言いひ給たまふ『ゆきて夫をっとをここに呼よびきたれ』 17 女をんなこたへて言いふ『われに夫をっとなし』イエス言いひ給たまふ『夫をっとなしといふは宜うべなり。 18 夫をっとは五ご人にんまでありしが、今いまある者ものは、なんぢの夫をっとにあらず。無なしと云いへるは眞󠄃まことなり』 19 女をんないふ『主しゅよ、我われなんぢを預言者よげんしゃとみとむ。 20 我われらの先祖せんぞたちは此この山やまにて拜はいしたるに、汝なんぢらは拜はいすべき處ところをエルサレムなりと言いふ』
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21 イエス言いひ給たまふ『をんなよ、我わが言いふことを信しんぜよ、此この山やまにもエルサレムにもあらで、汝なんぢら父󠄃ちちを拜はいする時とききたるなり。 22 汝なんぢらは知しらぬ者ものを拜はいし、我われらは知しる者ものを拜はいす、救すくひはユダヤ人びとより出いづればなり。 23 されど眞󠄃まことの禮拜者れいはいしゃの、靈れいと眞󠄃まこととをもて父󠄃ちちを拜はいする時とききたらん、今いますでに來きたれり。父󠄃ちちは斯かくのごとく拜はいする者ものを求もとめたまふ。 24 神かみは靈れいなれば、拜はいする者ものも靈れいと眞󠄃まこととをもて拜はいすべきなり』 25 女をんないふ『我われはキリストと稱󠄄となふるメシヤの來きたることを知しる、彼かれきたらば、諸般もろもろのことを我われらに吿つげん』〘135㌻〙 26 イエス言いひ給たまふ『なんぢと語かたる我われはそれなり』

27 時ときに弟子でしたち歸かへりきたりて、女をんなと語かたり給たまふを怪あやしみたれど、何なにを求もとめ給たまふか、何なに故ゆゑかれと語かたり給たまふかと問とふもの誰たれもなし。 28 爰こゝに女をんなその水瓶みづがめを遺󠄃のこしおき、町まちにゆきて人々ひとびとにいふ、 29 『來きたりて見みよ、わが爲なしし事ことをことごとく我われに吿つげし人ひとを。この人ひと、或あるひはキリストならんか』 30 人々ひとびと町まちを出いでてイエスの許もとにゆく。 31 この間あひだに弟子でしたち請󠄃こひて言いふ『ラビ、食󠄃しょくし給たまへ』 32 イエス言いひたまふ『我われには汝なんぢらの知しらぬ我わが食󠄃しょくする食󠄃物しょくもつあり』 33 弟子でしたち互たがひにいふ『たれか食󠄃しょくする物ものを持もち來きたりしか』 34 イエス言いひ給たまふ『われを遣󠄃つかはし給たまへる物ものの御意みこゝろを行おこなひ、その御業みわざをなし遂󠄅とぐるは、是これわが食󠄃物しょくもつなり。 35 なんぢら收穫時かりいれどきの來きたるには、なほ四月󠄃よつきありと言いはずや。我われなんぢらに吿つぐ、目めをあげて畑はたを見みよ、[*]はや黃きばみて收穫時かりいれどきになれり。[*「はや」或は三六節「刈る者」の上におく。] 36 刈かる者ものは、價あたひを受うけて永遠󠄄とこしへの生命いのちの實みを集あつむ。播まく者ものと刈かる者ものとともに喜よろこばん爲ためなり。 37 俚諺ことわざに彼かれは播まき、此これは刈かるといへるは、斯こゝにおいて眞󠄃まことなり。 38 我われなんぢらを遣󠄃つかはして勞らうせざりしものを刈からしむ。他ほかの人々ひとびとさきに勞らうし、汝なんぢらはその勞らうを收をさむるなり』
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39 此この町まちの多おほくのサマリヤ人びと、女をんなの『わが爲なしし事ことをことごとく吿つげし』と證あかししたる言ことばによりてイエスを信しんじたり。 40 斯かくてサマリヤ人びと、御許みもとにきたりて、此この町まちに留とゞまらんことを請󠄃こひたれば、此處ここに二日ふつかとどまり給たまふ。 41 御言みことばによりて猶󠄅なほもおほくの人ひと、信しんじたり。 42 かくて女をんなに言いふ『今いまわれらの信しんずるは汝なんぢのかたる言ことばによるにあらず、親したしく聽ききて、これは眞󠄃まことに世よの救主すくひぬしなりと知しりたる故ゆゑなり』

43 二日ふつかの後のちイエスここを去さりてガリラヤに往󠄃ゆき給たまふ。 44 イエス自みづから證あかしして預言者よげんしゃは己おのが郷さとにて尊󠄅たふとばるる事ことなしと言いひ給たまへり。 45 斯かくてガリラヤに往󠄃ゆき給たまへば、ガリラヤ人びとこれを迎󠄃むかへたり。前󠄃さきに彼かれらも祭まつりに上のぼり、その祭まつりの時ときにエルサレムにて行おこなひ給たまひし事ことを見みたる故ゆゑなり。

46 イエス復またガリラヤのカナに往󠄃ゆき給たまふ、ここは前󠄃さきに水みづを葡萄酒ぶだうしゅになし給たまひし處ところなり。時ときに王わうの近󠄃臣きんしんあり、その子こカペナウムにて病やみゐたれば、 47 イエスのユダヤよりガリラヤに來きたり給たまへるを聞きき、御許みもとにゆきてカペナウムに下くだり、その子こを醫いやし給たまはんことを請󠄃こふ、子こは死しぬばかりなりしなり。 48 爰こゝにイエス言いひ給たまふ『なんぢら徴しるしと不思議ふしぎとを見みずば、信しんぜじ』〘136㌻〙 49 近󠄃臣きんしんいふ『主しゅよ、わが子この死しなぬ間うちにくだり給たまへ』 50 イエス言いひ給たまふ『かへれ、汝なんぢの子こは生いくるなり』彼かれはイエスの言いひ給たまひしことを信しんじて歸かへりしが、 51 下くだる途󠄃中とちゅう、僕しもべども往󠄃ゆき遇󠄃あひて、その子この生いきたることを吿つぐ。 52 その癒󠄄いえはじめし時ときを問とひしに『昨日きのふの[*]第七だいしち時じに熱ねつ去されり』といふ。[*今の午後一時頃ならん。] 53 父󠄃ちちその時ときの、イエスが『なんぢの子こは生いくるなり』と言いひ給たまひし時ときと同おなじきを知しり、而しかして己おのれも家いへの者ものもみな信しんじたり。 54 是これはイエス、ユダヤよりガリラヤに往󠄃ゆきて爲なし給たまへる第二だいにの徴しるしなり。
 187㌻ 

第5章

1 この後のちユダヤ人びとの祭まつりありて、イエス、エルサレムに上のぼり給たまふ。

2 エルサレムにある羊ひつじ門もんのほとりにヘブル語ごにてベテスダといふ池いけあり、之これにそひて五いつつの廊らうあり。 3 その內うちに病やめる者もの・盲人めしひ・跛者あしなへ・痩やせ衰󠄄おとろへたる者ものども夥多おびたゞしく臥ふしゐたり。[*](水みづの動うごくを待まてるなり。[*異本括孤中の句なし。] 4 それは御使󠄃みつかひのをりをり降󠄄くだりて水みづを動うごかすことあれば、その動うごきたるのち最先いやさきに池いけにいる者ものは、如何いかなる病やまひにても癒󠄄いゆる故ゆゑなり) 5 爰こゝに三十さんじふ八はち年ねん、病やまひになやむ人ひとありしが、 6 イエスその臥ふし居をるを見み、かつその病やまひの久ひさしきを知しり、之これに『なんぢ癒󠄄いえんことを願ねがふか』と言いひ給たまへば、 7 病やめる者ものこたふ『主しゅよ、水みづの動うごくとき、我われを池いけに入いるる者ものなし、我わが往󠄃ゆくほどに他ほかの人ひと、さきだち下くだるなり』 8 イエス言いひ給たまふ『起󠄃おきよ、床とこを取とりあげて步あゆめ』 9 この人ひとただちに癒󠄄いえ、床とこを取とりあげて步あゆめり。   その日ひは安息あんそく日にちに當あたりたれば、

10 ユダヤ人びと、醫いやされたる人ひとにいふ『安息あんそく日にちなり、床とこを取とりあぐるは宜よろしからず』 11 答こたふ『われを醫いやししその人ひと「床とこを取とりあげて步あゆめ」と云いへり』 12 かれら問とふ『「取とりあげて步あゆめ」と言いひし人ひとは誰たれなるか』 13 されど醫いやされし者ものは、その誰たれなるを知しらざりき、そこに群衆ぐんじゅうゐたればイエス退󠄃しりぞき給たまひしに因よる。 14 この後のちイエス宮みやにて彼かれに遇󠄃あひて言いひたまふ『視みよ、なんぢ癒󠄄いえたり。再ふたゝび罪つみを犯をかすな、恐おそらくは更󠄃さらに大おほいなる惡あしきこと汝なんぢに起󠄃おこらん』 15 この人ひとゆきてユダヤ人びとに、おのれを醫いやしたる者もののイエスなるを吿つぐ。 16 ここにユダヤ人びとかかる事ことを安息あんそく日にちになすとて、イエスを責せめたれば、 17 イエス答こたへ給たまふ『わが父󠄃ちちは今いまにいたるまで働はたらき給たまふ、我われもまた働はたらくなり』〘137㌻〙 18 此これに由よりてユダヤ人びといよいよイエスを殺ころさんと思おもふ。それは安息あんそく日にちを破やぶるのみならず、神かみを我わが父󠄃ちちといひて己おのれを神かみと等ひとしき者ものになし給たまひし故ゆゑなり。
 188㌻ 

19 イエス答こたへて言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、子こは父󠄃ちちのなし給たまふことを見みて行おこなふほかは自みづから何事なにごとをも爲なし得えず、父󠄃ちちのなし給たまふことは子こもまた同おなじく爲なすなり。 20 父󠄃ちちは子こを愛あいしてその爲なす所󠄃ところをことごとく子こに示しめしたまふ。また更󠄃さらに大おほいなる業わざを示しめし給たまはん、汝なんぢ等らをして怪あやしましめん爲ためなり。 21 父󠄃ちちの死しにし者ものを起󠄃おこして活いかし給たまふごとく、子こもまた己おのが欲ほっする者ものを活いかすなり。 22 父󠄃ちちは誰たれをも審さばき給たまはず、審判󠄄さばきをさへみな子こに委ゆだね給たまへり。 23 これ凡すべての人ひとの父󠄃ちちを敬うやまふごとくに子こを敬うやまはん爲ためなり。子こを敬うやまはぬ者ものは之これを遣󠄃つかはし給たまひし父󠄃ちちをも敬うやまはぬなり。 24 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、わが言ことばをききて我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものを信しんずる人ひとは、永遠󠄄とこしへの生命いのちをもち、かつ審判󠄄さばきに至いたらず、死しより生命いのちに移うつれるなり。 25 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、死しにし人ひと、神かみの子この聲こゑをきく時とききたらん、今いますでに來きたれり、而しかして聞きく人ひとは活いくべし。 26 これ父󠄃ちちみづから生命いのちを有󠄃もち給たまふごとく、子こにも自みづから生命いのちを有󠄃もつことを得えさせ、 27 また人ひとの子こたるに因よりて審判󠄄さばきする權けんを與あたへ給たまひしなり。 28 汝なんぢら之これを怪あやしむな、墓はかにある者ものみな神かみの子この聲こゑをききて出いづる時とききたらん。 29 善ぜんをなしし者ものは生命いのちに甦よみがへり、惡あくを行おこなひし者ものは審判󠄄さばきに甦よみがへるべし。

30 我われみづから何事なにごともなし能あたはず、ただ聞きくままに審さばくなり。わが審判󠄄さばきは正たゞし、それは我わが意こゝろを求もとめずして、我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものの御意みこゝろを求もとむるに因よる。 31 我われもし己おのれにつきて證あかしせば、我わが證あかしは眞󠄃まことならず。 32 我われにつきて證あかしする者ものは、他ほかにあり、その我われにつきて證あかしする證あかしの眞󠄃まことなるを我われは知しる。 33 なんぢら前󠄃さきに人ひとをヨハネに遣󠄃つかはししに、彼かれは眞󠄃まことにつきて證あかしせり。 34 我われは人ひとよりの證あかしを受うくる事ことをせねど、唯たゞなんぢらの救すくはれん爲ために之これを言いふ。 35 かれは燃もえて輝かゞやく燈火ともしびなりしが、汝なんぢ等らその光ひかりにありて暫時しばしよろこぶ事ことをせり。
 189㌻ 
36 然されど我われにはヨハネの證あかしよりも大おほいなる證あかしあり。父󠄃ちちの我われにあたへて成󠄃なし遂󠄅とげしめ給たまふわざ、即すなはち我わがおこなふ業わざは、我われにつきて父󠄃ちちの我われを遣󠄃つかはし給たまひたるを證あかしし、 37 また我われをおくり給たまひし父󠄃ちちも、我われにつきて證あかしし給たまへり。汝なんぢらは未いまだその御聲みこゑを聞ききし事ことなく、その御形みかたちを見みし事ことなし。 38 その御言みことばは汝なんぢらの衷うちにとどまらず、その遣󠄃つかはし給たまひし者ものを信しんぜぬに因よりて知しらるるなり。 39 汝なんぢらは聖󠄃書せいしょに永遠󠄄とこしへの生命いのちありと思おもひて之これを査しらぶ、されどこの聖󠄃書せいしょは我われにつきて證あかしするものなり。〘138㌻〙 40 然しかるに汝なんぢら生命いのちを得えんために我われに來きたるを欲ほっせず。 41 我われは人ひとよりの譽ほまれをうくる事ことをせず、 42 ただ汝なんぢらの衷うちに神かみを愛あいする事ことなきを知しる。 43 我われはわが父󠄃ちちの名なによりて來きたりしに、汝なんぢ等らわれを受うけず、もし他ほかの人ひとおのれの名なによりて來きたらば之これを受うけん。 44 互たがひに譽ほまれをうけて唯一ゆゐいつの神かみよりの譽ほまれを求もとめぬ汝なんぢらは、爭いかで信しんずることを得えんや。 45 われ父󠄃ちちに汝なんぢらを訴うったへんとすと思おもふな、訴うったふるもの一人ひとりあり、汝なんぢらが賴たのみとするモーセなり。 46 若もしモーセを信しんぜしならば、我われを信しんぜしならん、彼かれは我われにつきて錄しるしたればなり。 47 されど彼かれの書ふみを信しんぜずば、爭いかで我わが言ことばを信しんぜんや』

第6章

1 この後のちイエス、ガリラヤの海うみ、即すなはちテベリヤの海うみの彼方かなたにゆき給たまへば、 2 大おほいなる群衆ぐんじゅうこれに從したがふ、これは病やみたる者ものに行おこなひたまへる徴しるしを見みし故ゆゑなり。 3 イエス、山やまに登のぼりて、弟子でしたちと共ともにそこに坐ざし給たまふ。 4 時ときはユダヤ人びとの祭まつりなる過󠄃越すぎこしに近󠄃ちかし。 5 イエス眼めをあげて大おほいなる群衆ぐんじゅうのきたるを見みてピリポに言いひ給たまふ『われら何處いづこよりパンを買かひて、此この人々ひとびとに食󠄃くらはすべきか』 6 かく言いひ給たまふはピリポを試こゝろむるためにて、自みづから爲なさんとする事ことを知しり給たまふなり。
 190㌻ 
7 ピリポ答こたへて言いふ『二に百ひゃくデナリのパンありとも、人々ひとびとすこしづつ受うくるになほ足たらじ』 8 弟子でしの一人ひとりにてシモン・ペテロの兄弟きゃうだいなるアンデレ言いふ 9 『ここに一人ひとりの童子わらべあり、大麥おほむぎのパン五いつつと小ちひさき肴さかな二ふたつとをもてり、然されど此この多おほくの人ひとには何なににか爲ならん』 10 イエス言いひたまふ『人々ひとびとを坐ざせしめよ』その處ところに多おほくの草くさありて人々ひとびと坐ざせしが、その數󠄄かずおほよそ五ご千せん人にんなりき。 11 爰こゝにイエス、パンを取とりて謝󠄃しゃし、坐ざしたる人々ひとびとに分󠄃わかちあたへ、また肴さかなをも然しかなして、その欲ほっするほど與あたへ給たまふ。 12 人々ひとびとの飽󠄄あきたるのち弟子でしたちに言いひたまふ『廢すたるもののなきように擘さきたる餘あまりをあつめよ』 13 乃すなはち集あつめたるに、五いつつの大麥おほむぎのパンの擘さきたるを食󠄃くらひしものの餘あまり、十二じふにの筐かごに滿みちたり。 14 人々ひとびとその爲なし給たまひし徴しるしを見みていふ『實げにこれは世よに來きたるべき預言者よげんしゃなり』

15 イエス彼かれらが來きたりて己おのれをとらへ、王わうとなさんとするを知しり、復またひとりにて山やまに遁󠄅のがれたまふ。

16 夕ゆふべになりて弟子でしたち海うみにくだり、 17 船󠄄ふねにのり海うみを渡わたりて、カペナウムに往󠄃ゆかんとす。旣󠄁すでに暗󠄃くらくなりたるに、イエス未いまだ來きたりたまはず。 18 大風おほかぜふきて海うみややに荒出あれいづ。 19 かくて四し五ご十じふ丁ちゃうこぎ出いでしに、イエスの海うみの上うへをあゆみ、船󠄄ふねに近󠄃ちかづき給たまふを見みて懼おそれたれば、〘139㌻〙 20 イエス言いひたまふ『我われなり、懼おそるな』 21 乃すなはちイエスを船󠄄ふねに歡よろこび迎󠄃むかへしに、船󠄄ふねは直たゞちに往󠄃ゆかんとする地ちに著つけり。

22 明あくる日ひ、海うみのかなたに立たてる群衆ぐんじゅうは、一艘󠄄いっさうのほかに船󠄄ふねなく、又󠄂またイエスは弟子でしたちと共ともに乘のりたまはず、弟子でしたちのみ出いでゆきしを見みたり。 23 (時ときにテベリヤより數󠄄艘󠄄すうさうの船󠄄ふね、主しゅの謝󠄃しゃして人々ひとびとにパンを食󠄃くらはせ給たまひし處ところの近󠄃ちかくに來きたる) 24 ここに群衆ぐんじゅうはイエスも居給ゐたまはず、弟子でしたちも居をらぬを見みてその船󠄄ふねに乘のり、イエスを尋󠄃たづねてカペナウムに往󠄃ゆけり。
 191㌻ 
25 遂󠄅つひに海うみの彼方かなたにてイエスに遇󠄃あひて言いふ『ラビ、何時いつここに來きたり給たまひしか』 26 イエス答こたへて言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、汝なんぢらが我われを尋󠄃たづぬるは、徴しるしを見みし故ゆゑならでパンを食󠄃くらひて飽󠄄あきたる故ゆゑなり。 27 朽くつる糧かてのためならで永遠󠄄とこしへの生命いのちにまで至いたる糧かてのために働はたらけ。これは人ひとの子この汝なんぢらに與あたへんと爲するものなり、父󠄃ちちなる神かみは印いんして彼かれを證あかしし給たまひたるに因よる』 28 ここに彼かれら言いふ『われら神かみの業わざを行おこなはんには何なにをなすべきか』 29 イエス答こたへて言いひたまふ『神かみの業わざはその遣󠄃つかはし給たまへる者ものを信しんずる是これなり』 30 彼かれら言いふ『さらば我われらが見みて汝なんぢを信しんぜんために、何なにの徴しるしをなすか、何なにを行おこなふか。 31 我われらの先祖せんぞは荒野あらのにてマナを食󠄃くらへり、錄しるして「天てんよりパンを彼かれらに與あたへて食󠄃くはしめたり」と云いへるが如ごとし』 32 イエス言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、モーセは天てんよりのパンを汝なんぢらに與あたへしにあらず、然されど我わが父󠄃ちちは天てんよりの眞󠄃まことのパンを與あたへたまふ。 33 神かみのパンは天てんより降󠄄くだりて生命いのちを世よに與あたふるものなり』 34 彼かれ等らいふ『主しゅよ、そのパンを常つねに與あたへよ』 35 イエス言いひ給たまふ『われは生命いのちのパンなり、我われにきたる者ものは飢󠄄うゑず、我われを信しんずる者ものはいつまでも渇かわくことなからん。 36 然されど汝なんぢらは我われを見みてなほ信しんぜず、我われさきに之これを吿つげたり。 37 父󠄃ちちの我われに賜たまふものは皆みなわれに來きたらん、我われにきたる者ものは、我われこれを退󠄃しりぞけず。 38 夫それわが天てんより降󠄄くだりしは我わが意こゝろをなさん爲ためにあらず、我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものの御意みこゝろをなさん爲ためなり。 39 我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものの御意みこゝろは、すべて我われに賜たまひし者ものを、我われその一ひとつをも失うしなはずして終󠄃をはりの日ひに甦よみがへらする是これなり。 40 わが父󠄃ちちの御意みこゝろは、すべて子こを見みて信しんずる者ものの永遠󠄄とこしへの生命いのちを[*]得うる是これなり。われ終󠄃をはりの日ひにこれを甦よみがへらすべし』[*或は「得る事と、終󠄃の日に我が之を甦へらする事と是なり」と譯す。]
 192㌻ 

41 爰こゝにユダヤ人びとら、イエスの『われは天てんより降󠄄くだりしパンなり』と言いひ給たまひしにより、 42 呟つぶやきて言いふ『これはヨセフの子こイエスならずや、我等われらはその父󠄃ちち母ははを知しる、何なんぞ今いま「われは天てんより降󠄄くだれり」と言いふか』〘140㌻〙 43 イエス答こたへて言いひ給たまふ『なんぢら呟つぶやき合あふな、 44 我われを遣󠄃つかはしし父󠄃ちちひき給たまはずば、誰たれも我われに來きたること能あたはず、我われこれを終󠄃をはりの日ひに甦よみがへらすべし。 45 預言者よげんしゃたちの書ふみに「彼かれらみな神かみに敎をしへられん」と錄しるされたり。すべて父󠄃ちちより聽ききて學まなびし者ものは我われにきたる。 46 これは父󠄃ちちを見みし者ものありとにあらず、ただ神かみよりの者もののみ父󠄃ちちを見みたり。 47 誠󠄃まことに誠󠄃まことに、なんぢらに吿つぐ、信しんずる者ものは永遠󠄄とこしへの生命いのちをもつ。 48 我われは生命いのちのパンなり。 49 汝なんぢらの先祖せんぞは荒野あらのにてマナを食󠄃くらひしが死しにたり。 50 天てんより降󠄄くだるパンは、食󠄃くらふ者ものをして死しぬる事ことなからしむるなり。 51 我われは天てんより降󠄄くだりし活いけるパンなり、人ひとこのパンを食󠄃くらはば永遠󠄄とこしへに活いくべし。我わが與あたふるパンは我わが肉󠄁にくなり、世よの生命いのちのために之これを與あたへん』

52 爰こゝにユダヤ人びと、たがひに爭あらそひて言いふ『この人ひとはいかで己おのが肉󠄁にくを我われらに與あたへて食󠄃くはしむることを得えん』 53 イエス言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに、なんぢらに吿つぐ、人ひとの子この肉󠄁にくを食󠄃くらはず、その血ちを飮のまずば、汝なんぢらに生命いのちなし。 54 わが肉󠄁にくをくらひ、我わが血ちをのむ者ものは永遠󠄄とこしへの生命いのちをもつ、われ終󠄃をはりの日ひにこれを甦よみがへらすべし。 55 夫それわが肉󠄁にくは眞󠄃まことの食󠄃物くひもの、わが血ちは眞󠄃まことの飮物のみものなり。 56 わが肉󠄁にくをくらひ、我わが血ちをのむ者ものは、我われに居をり、我われもまた彼かれに居をる。 57 活いける父󠄃ちちの我われをつかはし、我われの父󠄃ちちによりて活いくるごとく、我われをくらふ者ものも我われによりて活いくべし。 58 天てんより降󠄄くだりしパンは、先祖せんぞたちが食󠄃くらひてなほ死しにし如ごときものにあらず、此このパンを食󠄃くらふものは永遠󠄄とこしへに活いきん』 59 此これ等らのことはイエス、カペナウムにて敎をしふるとき、會堂くわいだうにて言いひ給たまひしなり。
 193㌻ 

60 弟子でしたちの中うちおほくの者ものこれを聞ききて言いふ『こは甚はなはだしき言ことばなるかな、誰たれか能よく聽きき得うべき』 61 イエス弟子でしたちの之これに就つきて呟つぶやくを自みづから知しりて言いひ給たまふ『このことは汝なんぢらを躓つまづかするか。 62 さらば人ひとの子この原もと居をりし處ところに昇のぼるを見みば如何いかに。 63 活いかすものは靈れいなり、肉󠄁にくは益えきする所󠄃ところなし、わが汝なんぢらに語かたりし言ことは、靈れいなり生命いのちなり。 64 されど汝なんぢらの中うちに信しんぜぬ者ものどもあり』イエス初はじめより信しんぜぬ者ものどもは誰たれ、おのれを賣うる者ものは誰たれなるかを知しり給たまへるなり。 65 斯かくて言いひたまふ『この故ゆゑに我われさきに汝なんぢらに吿つげて父󠄃ちちより賜たまはりたる者ものならずば我われに來きたるを得えずと言いひしなり』

66 斯こゝにおいて弟子でし等たちのうち多おほくの者もの、かへり去さりて、復またイエスと共ともに步あゆまざりき。 67 イエス十二じふに弟子でしに言いひ給たまふ『なんぢらも去さらんとするか』〘141㌻〙 68 シモン・ペテロ答こたふ『主しゅよ、われら誰たれにゆかん、永遠󠄄とこしへの生命いのちの言ことばは汝なんぢにあり。 69 又󠄂またわれらは信しんじ、かつ知しる、なんぢは神かみの聖󠄃者しゃうじゃなり』 70 イエス答こたへ給たまふ『われ汝なんぢら十二じふに人にんを選󠄄えらびしにあらずや、然しかるに汝なんぢらの中うちの一人ひとりは惡魔󠄃あくまなり』 71 イスカリオテのシモンの子こユダを指さして言いひ給たまへるなり、彼かれは十二じふに弟子でしの一人ひとりなれど、イエスを賣うらんとする者ものなり。

第7章

1 この後のちイエス、ガリラヤのうちを巡󠄃めぐりゐ給たまふ、ユダヤ人びとの殺ころさんとするに因よりてユダヤのうちを巡󠄃めぐることを欲ほっし給たまはぬなり。 2 ユダヤ人びとの假廬かりいほの祭まつりちかづきたれば、 3 兄弟きゃうだいたちイエスに言いふ『なんぢの行おこなふ業わざを弟子でしたちにも見みせんために、此處ここを去さりてユダヤに往󠄃ゆけ。 4 誰たれにても自みづから顯あらはれんことを求もとめて隱ひそかに業わざをなす者ものなし。汝なんぢこれらの事ことを爲なすからには己おのれを世よにあらはせ』
 194㌻ 
5 是これその兄弟きゃうだいたちもイエスを信しんぜぬ故ゆゑなり。 6 爰こゝにイエス言いひ給たまふ『わが時ときはいまだ到いたらず、汝なんぢらの時ときは常つねに備そなはれり。 7 世よは汝なんぢらを憎にくむこと能あたはねど我われを憎にくむ、我われは世よの所󠄃作しわざの惡あしきを證あかしすればなり。 8 なんぢら祭まつりに上のぼれ、わが時ときいまだ滿みたねば、我われは今いまこの祭まつりにのぼらず』 9 かく言いひて尙なほガリラヤに留とゞまり給たまふ。

10 而しかして兄弟きゃうだいたちの、祭まつりにのぼりたる後のち、あらはならで潜しのびやかに上のぼり給たまふ。 11 祭まつりにあたりユダヤ人びとらイエスを尋󠄃たづねて『かれは何處いづこに居をるか』と言いふ。 12 また群衆ぐんじゅうのうちに囁󠄄さゝやく者ものおほくありて、或あるひは『イエスは善よき人ひとなり』といひ、或あるひは『いな群衆ぐんじゅうを惑まどはすなり』と言いふ。 13 然されどユダヤ人びとを懼おそるるに因よりて誰たれもイエスのことを公󠄃然おほやけに言いはず。

14 祭まつりも、はや半󠄃なかばとなりし頃ころイエス宮みやにのぼりて敎をしへ給たまへば、 15 ユダヤ人びとあやしみて言いふ『この人ひとは學まなびし事ことなきに、如何いかにして書ふみを知しるか』 16 イエス答こたへて言いひ給たまふ『わが敎をしへはわが敎をしへにあらず、我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものの敎をしへなり。 17 人ひともし御意みこゝろを行おこなはんと欲ほっせば、此この敎をしへの神かみよりか、我わが己おのれより語かたるかを知しらん。 18 己おのれより語かたるものは己おのれの榮光えいくわうをもとむ、己おのれを遣󠄃つかはしし者ものの榮光えいくわうを求もとむる者ものは眞󠄃まことなり、その中うちに不義ふぎなし。 19 モーセは汝なんぢらに律法おきてを與あたへしにあらずや、然されど汝なんぢ等らのうちに律法おきてを守まもる者ものなし。汝なんぢら何なにゆゑ我われを殺ころさんとするか』 20 群衆ぐんじゅうこたふ『なんぢは惡鬼あくきに憑つかれたり、誰たが汝なんぢを殺ころさんとするぞ』〘142㌻〙 21 イエス答こたへて言いひ給たまふ『われ一ひとつの業わざをなしたれば汝なんぢ等らみな怪あやしめり。 22 モーセは汝なんぢらに割󠄅禮かつれいを命めいじたり(これはモーセより起󠄃おこりしとにあらず、先祖せんぞより起󠄃おこりしなり)この故ゆゑに汝なんぢら安息あんそく日にちにも人ひとに割󠄅禮かつれいを施ほどこす。
 195㌻ 
23 モーセの律法おきての廢すたらぬために安息あんそく日にちに人ひとの割󠄅禮かつれいを受うくる事ことあらば、何なんぞ安息あんそく日にちに人ひとの全󠄃身ぜんしんを健󠄄すこやかにせしとて我われを怒いかるか。 24 外貌うはべによりて裁さばくな、正たゞしき審判󠄄さばきにて審さばけ』

25 爰こゝにエルサレムの或ある人々ひとびといふ『これは人々ひとびとの殺ころさんとする者ものならずや。 26 視みよ、公󠄃然おほやけに語かたるに之これに對たいして何なにをも言いふ者ものなし、司つかさたちは此この人ひとのキリストたるを眞󠄃まことに認󠄃みとめしならんか。 27 然されど我われらは此この人ひとの何處いづこよりかを知しる、キリストの來きたる時ときには、その何處いづこよりかを知しる者ものなし』 28 爰こゝにイエス宮みやにて敎をしへつつ呼よばはりて言いひ給たまふ『なんぢら我われを知しり、亦またわが何處いづこよりかを知しる。されど我われは己おのれより來きたるにあらず、眞󠄃まことの者ものありて我われを遣󠄃つかはし給たまへり。汝なんぢらは彼かれを知しらず、 29 我われは彼かれを知しる。我われは彼かれより出いで、彼かれは我われを遣󠄃つかはし給たまひしに因よりてなり』 30 爰こゝに人々ひとびとイエスを捕とらへんと謀はかりたれど、彼かれの時ときいまだ到いたらぬ故ゆゑに手出てだしする者ものなかりき。 31 斯かくて群衆ぐんじゅうのうち多おほくの人々ひとびとイエスを信しんじて『キリスト來きたるとも、此この人ひとの行おこなひしより多おほく徴しるしを行おこなはんや』と言いふ。 32 イエスにつきて群衆ぐんじゅうのかく囁󠄄さゝやくことパリサイ人びとの耳みみに入いりたれば、祭司長さいしちゃう・パリサイ人びとら彼かれを捕とらへんとて下役したやくどもを遣󠄃つかはししに、 33 イエス言いひ給たまふ『我われなほ暫しばらく汝なんぢらと偕ともに居をり、而しかしてのち我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものの御許みもとに往󠄃ゆく。 34 汝なんぢら我われを尋󠄃たづねん、されど逢あはざるべし、汝なんぢ等らわが居をる處ところに往󠄃ゆくこと能あたはず』 35 爰こゝにユダヤ人びとら互たがひに云いふ『この人ひとわれらの逢あひ得えぬいづこに往󠄃ゆかんとするか、ギリシヤ人びとのうちに散ちりをる者ものに往󠄃ゆきてギリシヤ人びとを敎をしへんとするか。 36 その言ことばに「なんぢら我われを尋󠄃たづねん、然されど逢あはざるべし、汝なんぢら我わがをる處ところに往󠄃ゆくこと能あたはず」と云いへるは何なにぞや』
 196㌻ 

37 祭まつりの終󠄃をはりの大おほいなる日ひにイエス立たちて呼よばはりて言いひたまふ『人ひともし渇かわかば我われに來きたりて飮のめ。 38 我われを信しんずる者ものは、聖󠄃書せいしょに云いへるごとく、その腹はらより活いける水みづ、川かはとなりて流ながれ出いづべし』 39 これは彼かれを信しんずる者ものの受うけんとする御靈みたまを指さして言いひ給たまひしなり。イエス未いまだ榮光えいくわうを受うけ給たまはざれば、御靈みたまいまだ降󠄄くだらざりしなり。 40 此これ等らの言ことばをききて群衆ぐんじゅうのうちの或ある人ひとは『これ眞󠄃まことにかの預言者よげんしゃなり』といひ、 41 或ある人ひとは『これキリストなり』と言いひ、又󠄂またある人ひとは『キリスト爭いかでガリラヤより出いでんや、〘143㌻〙 42 聖󠄃書せいしょにキリストはダビデの裔すゑまたダビデの居をりし村むらベツレヘムより出いづと云いへるならずや』と言いふ。 43 斯かくイエスの事ことによりて、群衆ぐんじゅうのうちに紛󠄃爭あらそひおこりたり。 44 その中なかには、イエスを捕とらへんと欲ほっする者ものもありしが、手出てだしする者ものなかりき。

45 而しかして下役したやくども、祭司長さいしちゃう・パリサイ人びとらの許もとに歸かへりたれば、彼かれら問とふ『なに故ゆゑかれを曳ひき來きたらぬか』 46 下役したやくども答こたふ『この人ひとの語かたるごとく語かたりし人ひとは未いまだなし』 47 パリサイ人びと等らこれに答こたふ『なんぢらも惑まどはされしか、 48 司つかさたち又󠄂またはパリサイ人びとのうちに一人ひとりだに彼かれを信しんぜし者ものありや、 49 律法おきてを知しらぬこの群衆ぐんじゅうは詛のろはれたる者ものなり』 50 彼かれ等らのうちの一人ひとりにて最さきにイエスの許もとに來きたりしニコデモ言いふ、 51 『われらの律法おきては先まづその人ひとに聽きき、その爲なすところを知しるにあらずば、審さばく事ことをせんや』 52 かれら答こたへて言いふ『なんぢもガリラヤより出いでしか、査しらべ見みよ、預言者よげんしゃはガリラヤより起󠄃おこる事ことなし』

53 〔[*]斯かくておのおの己おのが家いへに歸かへれり。[*異本七章五三より八章一一までを缺く。]
 197㌻ 

第8章

1 イエス、オリブ山やまにゆき給たまふ。 2 夜明よあけごろ、また宮みやに入いりしに、民たみみな御許みもとに來きたりたれば、坐ざして敎をしへ給たまふ。 3 爰こゝに學者がくしゃ・パリサイ人びとら、姦淫かんいんのとき捕とらへられたる女をんなを連󠄃つれきたり、眞󠄃中まなかに立たててイエスに言いふ、 4 『師しよ、この女をんなは姦淫かんいんのをり、そのまま捕とらへられたるなり。 5 モーセは律法おきてに、斯かゝる者ものを石いしにて擊うつべき事ことを我われらに命めいじたるが、汝なんぢは如何いかに言いふか』 6 斯かく云いへるはイエスを試こゝろみて訴うったふる種たねを得えんとてなり。イエス身みを屈かゞめ、指ゆびにて地ちに物もの書かき給たまふ。 7 かれら問とひて止やまざれば、イエス身みを起󠄃おこして『なんぢらの中うち、罪つみなき者ものまづ石いしを擲なげうて』と言いひ、 8 また身みを屈かがめて地ちに物もの書かきたまふ。 9 彼かれ等らこれを聞ききて良心りゃうしんに責せめられ、老人としよりをはじめ若わかき者ものまで一人ひとり一人ひとりいでゆき、唯たゞイエスと中なかに立たてる女をんなとのみ遺󠄃のこれり。 10 イエス身みを起󠄃おこして、女をんなのほかに誰たれも居をらぬを見みて言いひ給たまふ『をんなよ、汝なんぢを訴うったへたる者ものどもは何處いづこにをるぞ、汝なんぢを罪つみする者ものなきか』 11 女をんないふ『主しゅよ、誰たれもなし』イエス言いひ給たまふ『われも汝なんぢを罪つみせじ、往󠄃ゆけ、この後のちふたたび罪つみを犯をかすな』〕

12 斯かくてイエスまた人々ひとびとに語かたりて言いひ給たまふ『われは世よの光ひかりなり、我われに從したがふ者ものは暗󠄃くらき中うちを步あゆまず、生命いのちの光ひかりを得うべし』 13 パリサイ人びとら言いふ『なんぢは己おのれにつきて證あかしす、なんぢの證あかしは眞󠄃まことならず』 14 イエス答こたへて言いひ給たまふ『われ自みづから己おのれにつきて證あかしすとも我わが證あかしは眞󠄃まことなり、我われは何處いづこより來きたり何處いづこに往󠄃ゆくを知しる故ゆゑなり。汝なんぢらは我わが何處いづこより來きたり、何處いづこに往󠄃ゆくを知しらず、〘144㌻〙 15 なんぢらは肉󠄁にくによりて審さばく、我われは誰たれをも審さばかず。 16 されど我われもし審さばかば、我わが審判󠄄さばきは眞󠄃まことなり、我われは一人ひとりならず、我われと我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものと偕ともなるに因よる。 17 また汝なんぢらの律法おきてに、二人ふたりの證あかしは眞󠄃まことなりと錄しるされたり。
 198㌻ 
18 我われみづから己おのれにつきて證あかしをなし、我われを遣󠄃つかはし給たまひし父󠄃ちちも我われにつきて證あかしをなし給たまふ』 19 ここに彼かれら言いふ『なんぢの父󠄃ちちは何處いづこにあるか』イエス答こたへ給たまふ『なんぢらは我われをも我わが父󠄃ちちをも知しらず、我われを知しりしならば、我わが父󠄃ちちをも知しりしならん』 20 イエス宮みやの內うちにて敎をしへし時ときこれらの事ことを賽錢函さいせんばこの傍かたはらにて語かたり給たまひしが、彼かれの時ときいまだ到いたらぬ故ゆゑに、誰たれも捕とらふる者ものなかりき。

21 斯かくてまた人々ひとびとに言いひ給たまふ『われ往󠄃ゆく、なんぢら我われを尋󠄃たづねん。されど己おのが罪つみのうちに死しなん、わが往󠄃ゆくところに汝なんぢら來きたること能あたはず』 22 ユダヤ人びとら言いふ『「わが往󠄃ゆく處ところに汝なんぢら來きたること能あたはず」と云いへるは、自殺じさつせんとてか』 23 イエス言いひ給たまふ『なんぢらは下したより出いで、我われは上うへより出いづ、汝なんぢらは此この世よより出いで、我われは此この世よより出いでず。 24 之これによりて我われなんぢらは己おのが罪つみのうちに死しなんと云いへるなり。汝なんぢ等らもし我われの夫それなるを信しんぜずば、罪つみのうちに死しぬべし』 25 彼かれら言いふ『なんぢは誰たれなるか』イエス言いひ給たまふ『[*]われは正まさしく汝なんぢらに吿つげ來きたりし所󠄃ところの者ものなり。[*或は「われ初より汝らにつげしに、何ぞや」と譯す。] 26 われ汝なんぢらに就つきて語かたるべきこと審さばくべきこと多おほし、而しかして我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものは眞󠄃まことなり、我われは彼かれに聽ききしその事ことを世よに吿つぐるなり』 27 これは父󠄃ちちをさして言いひ給たまへるを、彼かれらは悟さとらざりき。 28 爰こゝにイエス言いひ給たまふ『なんぢら人ひとの子こを擧あげしのち、我われの夫それなるを知しり、又󠄂またわが己おのれによりて何事なにごとをも爲なさず、ただ父󠄃ちちの我われに敎をしへ給たまひしごとく、此これ等らのことを語かたりたるを知しらん。 29 我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものは、我われとともに在います。我われつねに御意みこゝろに適󠄄かなふことを行おこなふによりて、我われを獨ひとりおき給たまはず』 30 此これ等らのことを語かたり給たまへるとき、多おほくの人々ひとびとイエスを信しんじたり。

31 爰こゝにイエス己おのれを信しんじたるユダヤ人びとに言いひたまふ『汝なんぢ等らもし常つねに我わが言ことばに居をらば、眞󠄃まことにわが弟子でしなり。 32 また眞󠄃理しんりを知しらん、而しかして眞󠄃理しんりは汝なんぢらに自由じいうを得えさすべし』
 199㌻ 
33 かれら答こたふ『われはアブラハムの裔すゑにして未いまだ人ひとの奴隷どれいとなりし事ことなし。如何いかなれば「なんぢら自由じいうを得うべし」と言いふか』 34 イエス答こたへ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、すべて罪つみを犯をかす者ものは罪つみの奴隷どれいなり。〘145㌻〙 35 奴隷どれいはとこしへに家いへに居をらず、子こは永遠󠄄とこしへに居をるなり。 36 この故ゆゑに子こもし汝なんぢらに自由じいうを得えさせば、汝なんぢら實じつに自由じいうとならん。 37 我われは汝なんぢらがアブラハムの裔すゑなるを知しる、されど我わが言ことばなんぢらの衷うちに[*]留とゞまらぬ故ゆゑに、我われを殺ころさんと謀はかる。[*或は「そだたぬ」と譯す。] 38 我われは[*]わが父󠄃ちちの許もとにて見みしことを語かたり、汝なんぢらは又󠄂またなんぢらの父󠄃ちちより聞ききしことを行おこなふ』[*或は「我、父󠄃の許にて見しことを語れば、汝ら父󠄃より聞きし事を行へ」と譯す。] 39 かれら答こたへて言いふ『われらの父󠄃ちちはアブラハムなり』イエス言いひ給たまふ『もしアブラハムの子こならば、アブラハムの業わざを[*]なさん。[*異本「なせ」とあり。] 40 然しかるに汝なんぢらは今いま、神かみより聽ききたる眞󠄃理しんりを汝なんぢらに吿つぐる者ものなる我われを殺ころさんと謀はかる。アブラハムは斯かゝることを爲なさざりき。 41 汝なんぢらは汝なんぢらの父󠄃ちちの業わざを爲なすなり』かれら言いふ『われら淫行いんかうによりて生うまれず、我われらの父󠄃ちちはただ一人ひとり、即すなはち神かみなり』 42 イエス言いひたまふ『神かみもし汝なんぢらの父󠄃ちちならば、汝なんぢら我われを愛あいせん、われ神かみより出いでて來きたればなり。我われは己おのれより來きたるにあらず、神かみわれを遣󠄃つかはし給たまへり。 43 何なに故ゆゑわが語かたることを悟さとらぬか、是これわが言ことばをきくこと能あたはぬに因よる。 44 汝なんぢらは己おのが父󠄃ちち、惡魔󠄃あくまより出いでて己おのが父󠄃ちちの慾よくを行おこなはんことを望󠄇のぞむ。彼かれは最初はじめより人殺ひとごろしなり、また眞󠄃まことその中なかになき故ゆゑに眞󠄃まことに立たたず、彼かれは虛僞いつはりをかたる每ごとに己おのれより語かたる、それは虛僞いつはり者ものにして[*]虛僞いつはりの父󠄃ちちなればなり。[*或は「虛僞者の父󠄃」と譯す。] 45 然しかるに我われは眞󠄃まことを吿つぐるによりて、汝なんぢら我われを信しんぜず、 46 汝なんぢ等らのうち誰たれか我われを罪つみありとして責せめ得うる。われ眞󠄃まことを吿つぐるに、我われを信しんぜぬは何なに故ゆゑぞ。 47 神かみより出いづる者ものは神かみの言ことばをきく、汝なんぢらの聽きかぬは神かみより出いでぬに因よる』
 200㌻ 
48 ユダヤ人びとこたへて言いふ『なんぢはサマリヤ人びとにて惡鬼あくきに憑つかれたる者ものなりと、我われらが云いへるは宜うべならずや』 49 イエス答こたへ給たまふ『われは惡鬼あくきに憑つかれず、反かへつて我わが父󠄃ちちを敬うやまふ、なんぢらは我われを輕かろんず。 50 我われはおのれの榮光えいくわうを求もとめず、之これを求もとめ、かつ審判󠄄さばきし給たまふ者ものあり。 51 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、人ひともし我わが言ことばを守まもらば、永遠󠄄とこしへに死しを見みざるべし』 52 ユダヤ人びといふ『今いまぞ、なんぢが惡鬼あくきに憑つかれたるを知しる。アブラハムも預言者よげんしゃたちも死しにたり、然しかるに汝なんぢは「人ひともし我わが言ことばを守まもらば、永遠󠄄とこしへに死しを味あぢははざるべし」と云いふ。 53 汝なんぢわれらの父󠄃ちちアブラハムよりも大おほいなるか、彼かれは死しに、預言者よげんしゃたちも死しにたり、汝なんぢはおのれを誰たれとするか』 54 イエス答こたへたまふ『我われもし己おのれに榮光えいくわうを歸きせば、我わが榮光えいくわうは空󠄃むなし。我われに榮光えいくわうを歸きする者ものは我わが父󠄃ちちなり、即すなはち汝なんぢらが己おのれの神かみと稱󠄄となふる者ものなり。 55 然しかるに汝なんぢらは彼かれを知しらず、我われは彼かれを知しる。もし彼かれを知しらずと言いはば、汝なんぢらの如ごとく僞者いつはりものたるべし。然されど我われは彼かれを知しり、且かつその御言みことばを守まもる。〘146㌻〙 56 汝なんぢらの父󠄃ちちアブラハムは、我わが日ひを見みんとて樂たのしみ且かつこれを見みて喜よろこべり』 57 ユダヤ人びといふ『なんぢ未いまだ五十歳ごじっさいにもならぬにアブラハムを見みしか』 58 イエス言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、アブラハムの生うまれいでぬ前󠄃さきより我われは在あるなり』 59 爰こゝに彼かれら石いしをとりてイエスに擲なげうたんと爲したるに、イエス隱かくれて宮みやを出いで給たまへり。

第9章

1 イエス途󠄃みち往󠄃ゆくとき、生うまれながらの盲人めしひを見み給たまひたれば、 2 弟子でしたち問とひて言いふ『ラビ、この人ひとの盲目めしひにて生うまれしは、誰たれの罪つみによるぞ、己おのれのか、親おやのか』 3 イエス答こたへ給たまふ『この人ひとの罪つみにも親おやの罪つみにもあらず、ただ彼かれの上うへに神かみの業わざの顯あらはれん爲ためなり。 4 我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものの業わざを我われら晝ひるの間うちになさざる可べからず。夜よきたらん、その時ときは誰たれも働はたらくこと能あたはず。
 201㌻ 
5 われ世よにをる間あひだは世よの光ひかりなり』 6 かく言いひて地ちに唾つばきし、唾つばきにて泥どろをつくり、之これを盲人めしひの目めにぬりて言いひ給たまふ、 7 『ゆきてシロアム(釋とけば遣󠄃つかはされたる者もの)の池いけにて洗あらへ』乃すなはちゆきて洗あらひたれば、見みゆることを得えて歸かへれり。 8 ここに隣となり人びとおよび前󠄃さきに彼かれの乞食󠄃こつじきなるを見みし者ものども言いふ『この人ひとは坐ざして物もの乞こひゐたるにあらずや』 9 或ある人ひとは『夫それなり』といひ、或ある人ひとは『否いな、ただ似にたるなり』といふ。かの者もの『われは夫それなり』と言いひたれば、 10 人々ひとびといふ『さらば汝なんぢの目めは如何いかにして開ひらきたるか』 11 答こたふ『イエスといふ人ひと、泥どろをつくり我わが目めに塗ぬりて言いふ「シロアムに往󠄃ゆきて洗あらへ」と、乃すなはち往󠄃ゆきて洗あらひたれば、物もの見みることを得えたり』 12 彼かれら『その人ひとは何處いづこに居をるか』と言いへば『知しらず』と答こたふ。

13 人々ひとびとさきに盲目めしひなりし者ものをパリサイ人びとらの許もとに連󠄃つれきたる。 14 イエスの泥どろをつくりて其その人ひとの目めをあけし日ひは安息あんそく日にちなりき。 15 パリサイ人びとらも亦またいかにして物もの見みることを得えしかと問とひたれば、彼かれいふ『かの人ひとわが目めに泥どろをぬり、我われこれを洗あらひて見みゆることを得えたり』 16 パリサイ人びとの中うちなる或ある人ひとは『かの人ひと、安息あんそく日にちを守まもらぬ故ゆゑに、神かみより出いでし者ものにあらず』と言いひ、或ある人ひとは『罪つみある人ひといかで斯かゝる徴しるしをなし得えんや』と言いひて互たがひに相あひ爭あらそひたり。 17 爰こゝにまた盲目めしひなりし人ひとに言いふ『なんぢの目めをあけしに因より、汝なんぢは彼かれに就つきて如何いかにいふか』彼かれいふ『預言者よげんしゃなり』〘147㌻〙 18 ユダヤ人びとら彼かれが盲目めしひなりしに見みゆるやうになりしことを未いまだ信しんぜずして、目めの開ひらきたる人ひとの兩親ふたおやを呼よび、 19 問とひて言いふ『これは盲目めしひにて生うまれしと言いふ汝なんぢらの子こなりや、然さらば今いまいかにして見みゆるか』 20 兩親ふたおやこたへて言いふ『かれの我わが子こなることと盲目めしひにて生うまれたる事こととを知しる。 21 されど今いまいかにして見みゆるかを知しらず、又󠄂またその目めをあけしは誰たれなるか、我われらは知しらず、彼かれに問とへ、年とし長たけたれば自みづから己おのがことを語かたらん』
 202㌻ 
22 兩親ふたおやのかく言いひしは、ユダヤ人びとを懼おそれたるなり。ユダヤ人びとら相あひ議はかりて『若もしイエスをキリストと言いひ顯あらはす者ものあらば、除名ぢょめいすべし』と定さだめたるに因よる。 23 兩親ふたおやの『かれ年とし長たけたれば彼かれに問とへ』と云いへるは、此この故ゆゑなり。 24 かれら盲目めしひなりし人ひとを再ふたゝび呼よびて言いふ『神かみに榮光えいくわうを歸きせよ、我等われらはかの人ひとの罪人つみびとたるを知しる』 25 答こたふ『かれ罪人つみびとなるか、我われは知しらず、ただ一ひとつの事ことをしる、即すなはち我われさきに盲目めしひたりしが、今いま見みゆることを得えたる是これなり』 26 彼かれら言いふ『かれは汝なんぢに何なにをなししか、如何いかにして目めをあけしか』 27 答こたふ『われ旣󠄁すでに汝なんぢらに吿つげたれど聽きかざりき。何なにぞまた聽きかんとするか、汝なんぢらもその弟子でしとならんことを望󠄇のぞむか』 28 かれら罵のゝしりて言いふ『なんぢは其その弟子でしなり、我等われらモーセの弟子でしなり。 29 モーセに神かみの語かたり給たまひしことを知しれど、此この人ひとの何處いづこよりかを知しらず』 30 答こたへて言いふ『その何處いづこよりかを知しらずとは怪あやしき事ことなり、彼かれわが目めをあけしに。 31 神かみは罪人つみびとに聽きき給たまはねど、敬虔けいけんにして御意みこゝろをおこなふ人ひとに聽きき給たまふことを我われらは知しる。 32 世よの太初はじめより、盲目めしひにて生うまれし者ものの目めをあけし人ひとあるを聞ききし事ことなし。 33 かの人ひともし神かみより出いでずば、何事なにごとをも爲なし得えざらん』 34 かれら答こたへて『なんぢ全󠄃まったく罪つみのうちに生うまれながら、我われらを敎をしふるか』と言いひて、遂󠄅つひに彼かれを追󠄃おひ出いだせり。

35 イエスその追󠄃おひ出いだされしことを聞きき、彼かれに逢あひて言いひ給たまふ『なんぢ人ひとの子こを信しんずるか』 36 答こたへて言いふ『主しゅよ、それは誰たれなる乎か、われ信しんぜまほし』 37 イエス言いひ給たまふ『なんぢ彼かれを見みたり、汝なんぢと語かたる者ものは夫それなり』 38 爰こゝに、彼かれ『主しゅよ、我われは信しんず』といひて拜はいせり。 39 イエス言いひ給たまふ『われ審判󠄄さばきの爲ためにこの世よに來きたれり。見みえぬ人ひとは見みえ、見みゆる人ひとは盲目めしひとならん爲ためなり』
 203㌻ 
40 パリサイ人びとの中うちイエスと共ともに居をりし者もの、これを聞ききて言いふ『我われらも盲目めしひなるか』 41 イエス言いひ給たまふ『もし盲目めしひなりしならば、罪つみなかりしならん、然されど見みゆと言いふ汝なんぢらの罪つみは遺󠄃のこれり』〘148㌻〙

第10章

1 『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、羊ひつじの檻をりに門もんより入いらずして、他ほかより越こゆる者ものは、盜人ぬすびとなり、强盜がうたうなり。 2 門もんより入いる者ものは、羊ひつじの牧者ひつじかひなり。 3 門守かどもりは彼かれのために開ひらき、羊ひつじはその聲こゑをきき、彼かれは己おのれの羊ひつじの名なを呼よびて牽󠄁ひきいだす。 4 悉ことごとく其その羊ひつじをいだしし時とき、これに先さきだちゆく、羊ひつじその聲こゑを知しるによりて從したがふなり。 5 他ほかの者ものには從したがはず、反かへつて逃󠄄にぐ、他ほかの者ものどもの聲こゑを知しらぬ故ゆゑなり』 6 イエスこの譬たとへを言いひ給たまへど、彼かれらその何事なにごとをかたり給たまふかを知しらざりき。

7 この故ゆゑにイエス復またいひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、我われは羊ひつじの門もんなり。 8 すべて我われより前󠄃さきに來きたりし者ものは、盜人ぬすびとなり、强盜がうたうなり、羊ひつじは之これに聽きかざりき。 9 我われは門もんなり、おほよそ我われによりて入いる者ものは救すくはれ、かつ出入でいりをなし、草くさを得うべし。 10 盜人ぬすびとのきたるは盜ぬすみ、殺ころし、亡ほろぼさんとするの他ほかなし。わが來きたるは羊ひつじに生命いのちを得えしめ、かつ豐ゆたかに得えしめん爲ためなり。 11 我われは善よき牧者ひつじかひなり、善よき牧者ひちじかひは羊ひつじのために生命いのちを捨󠄃すつ。 12 牧者ひつじかひならず、羊ひつじも己おのがものならぬ雇󠄃人やとひびとは、豺狼おほかみのきたるを見みれば羊ひつじを棄すてて逃󠄄にぐ、――豺狼おほかみは羊ひつじをうばひ且かつちらす―― 13 彼かれは雇󠄃人やとひびとにてその羊ひつじを顧󠄃かへりみぬ故ゆゑなり。 14 我われは善よき牧者ひちじかひにして、我わがものを知しり、我わがものは我われを知しる、 15 父󠄃ちちの我われを知しり、我われの父󠄃ちちを知しるが如ごとし、我われは羊ひつじのために生命いのちを捨󠄃すつ。 16 我われには亦またこの檻をりのものならぬ他ほかの羊ひつじあり、之これをも導󠄃みちびかざるを得えず、彼かれらは我わが聲こゑをきかん、遂󠄅つひに一ひとつの群むれひとりの牧者ひちじかひとなるべし。 17 之これによりて父󠄃ちちは我われを愛あいし給たまふ、それは我われふたたび生命いのちを得えんために生命いのちを捨󠄃すつる故ゆゑなり。
 204㌻ 
18 人ひとこれを我われより取とるにあらず、我われみづから捨󠄃すつるなり。我われは之これをすつる權けんあり、復またこれを得うる權けんあり、我われこの命令めいれいをわが父󠄃ちちより受うけたり』

19 これらの言ことばによりて復またユダヤ人びとのうちに紛󠄃爭あらそひおこり、 20 その中うちなる多おほくの者ものいふ『かれは惡鬼あくきに憑つかれて氣き狂くるへり、何なにぞ之これにきくか』 21 他ほかの者ものども言いふ『これは惡鬼あくきに憑つかれたる者ものの言ことばにあらず、惡鬼あくきは盲人めしひの目めをあけ得えんや』

22 その頃ころエルサレムに宮みや潔󠄄きよめの祭まつりあり、時ときは冬󠄃ふゆなり。 23 イエス宮みやの內うち、ソロモンの廊らうを步あゆみたまふに、 24 ユダヤ人びとら之これを取圍󠄃とりかこみて言いふ『何時いつまで我われらの心こゝろを惑まどはしむるか、汝なんぢキリストならば明白あらはに吿つげよ』 25 イエス答こたへ給たまふ『われ旣󠄁すでに吿つげたれど汝なんぢら信しんぜず、わが父󠄃ちちの名なによりて行おこなふわざは、我われに就つきて證あかしす。 26 されど汝なんぢらは信しんぜず、我わが羊ひつじならぬ故ゆゑなり。〘149㌻〙 27 わが羊ひつじはわが聲こゑをきき、我われは彼かれらを知しり、彼かれらは我われに從したがふ。 28 我われかれらに永遠󠄄とこしへの生命いのちを與あたふれば、彼かれらは永遠󠄄とこしへに亡ほろぶることなく、又󠄂またかれらを我わが手てより奪うばふ者ものあらじ。 29 彼かれら[*]を我われにあたへ給たまひし我わが父󠄃ちちは、一切すべてのものよりも大おほいなれば、誰たれにても父󠄃ちちの御手みてよりは奪うばふこと能あたはず。[*異本「わが父󠄃の我に與へ給ひし者は、一切のものよりも大なり」とあり。] 30 我われと父󠄃ちちとは一ひとつなり』 31 ユダヤ人びとまた石いしを取とりあげてイエスを擊うたんとす。 32 イエス答こたへ給たまふ『われは父󠄃ちちによりて多おほくの善よき業わざを汝なんぢらに示しめしたり、その孰いづれの業わざゆゑに我われを石いしにて擊うたんとするか』 33 ユダヤ人びとこたふ『なんぢを石いしにて擊うつは善よきわざの故ゆゑならず、瀆言けがしごとの故ゆゑにして、汝なんぢ人ひとなるに己おのれを神かみとする故ゆゑなり』 34 イエス答こたへ給たまふ『なんぢらの律法おきてに「われ言いふ、汝なんぢらは神かみなり」と錄しるされたるに非あらずや。 35 かく神かみの言ことばを賜たまはりし人々ひとびとを神かみと云いへり。聖󠄃書せいしょは廢すたるべきにあらず、
 205㌻ 
36 然しかるに父󠄃ちちの潔󠄄きよめ別わかちて世よに遣󠄃つかはし給たまひし者ものが「われは神かみの子こなり」と言いへばとて、何なにぞ「瀆言けがしごとを言いふ」といふか。 37 我われもし我わが父󠄃ちちのわざを行おこなはずば我われを信しんずな、 38 もし行おこなはば假令たとひわれを信しんぜずとも、その業わざを信しんぜよ。然さらば父󠄃ちちの我われにをり、我われの父󠄃ちちに居をることを知しりて悟さとらん』 39 かれら復またイエスを捕とらへんとせしが、その手てより脫のがれて去さり給たまへり。

40 斯かくてイエス復またヨルダンの彼方かなた、ヨハネの最初はじめにバプテスマを施ほどこしたる處ところにいたり、其處そこにとどまり給たまひしが、 41 多おほくの人ひとみもとに來きたりて『ヨハネは何なにの徴しるしをも行おこなはざりしかど、この人ひとに就つきてヨハネの言いひし事ことは、ことごとく眞󠄃まことなりき』と言いふ。 42 而しかして多おほくの人ひと、かしこにてイエスを信しんじたり。

第11章

1 爰こゝに病やめる者ものあり、ラザロと云いふ、マリヤとその姉妹しまいマルタとの村むらベタニヤの人ひとなり。 2 此このマリヤは主しゅに香にほひ油あぶらをぬり、頭髮かみのけにて御足みあしを拭ぬぐひし者ものにして、病やめるラザロはその兄弟きゃうだいなり。 3 姉妹しまいら人ひとをイエスに遣󠄃つかはして『主しゅ、視みよ、なんぢの愛あいし給たまふもの病やめり』と言いはしむ。 4 之これを聞ききてイエス言いひ給たまふ『この病やまひは死しに至いたらず、神かみの榮光えいくわうのため、神かみの子このこれに由よりて榮光えいくわうを受うけんためなり』 5 イエスはマルタと、その姉妹しまいと、ラザロとを愛あいし給たまへり。 6 ラザロの病やみたるを聞ききて、その居給ゐたまひし處ところになほ二日ふつか留とゞまり、 7 而しかしてのち弟子でしたちに言いひ給たまふ『われら復またユダヤに往󠄃ゆくべし』 8 弟子でしたち言いふ『ラビ、この程󠄃ほどもユダヤ人びと、なんぢを石いしにて擊うたんとせしに、復またかしこに往󠄃ゆき給たまふか』〘150㌻〙 9 イエス答こたへたまふ『一日いちにちに十二じふに時ときあるならずや、人ひともし晝ひるあるかば、此この世よの光ひかりを見みるゆゑに躓つまづくことなし。 10 夜よるあるかば、光ひかりその人ひとになき故ゆゑに躓つまづくなり』 11 かく言いひて復またその後のちいひ給たまふ『われらの友ともラザロ眠ねむれり、されど我われよび起󠄃おこさん爲ために往󠄃ゆくなり』
 206㌻ 
12 弟子でしたち言いふ『主しゅよ、眠ねむれるならば癒󠄄いゆべし』 13 イエスは彼かれが死しにたることを言いひ給たまひしなれど、弟子でしたちは寢いねて眠ねむれるを言いひ給たまふと思おもへるなり。 14 爰こゝにイエス明白あらはに言いひ給たまふ『ラザロは死しにたり。 15 我われかしこに居をらざりし事ことを汝なんぢ等らのために喜よろこぶ、汝なんぢ等らをして信しんぜしめんとてなり。然されど我われら今いまその許もとに往󠄃ゆくべし』 16 デドモと稱󠄄となふるトマス、他ほかの弟子でしたちに言いふ『われらも往󠄃ゆきて彼かれと共ともに死しぬべし』

17 さてイエス來きたり見み給たまへば、ラザロの墓はかにあること、旣󠄁すでに四日よっかなりき。 18 ベタニヤはエルサレムに近󠄃ちかくして、二に十じふ五ご丁ちゃうばかりの距離へだたりなるが、 19 數󠄄多あまたのユダヤ人びと、マルタとマリヤとをその兄弟きゃうだいの事ことにつき慰なぐさめんとて來きたれり。 20 マルタはイエス來給きたまふと聞ききて出いで迎󠄃むかへたれど、マリヤはなほ家いへに坐ざし居ゐたり。 21 マルタ、イエスに言いふ『主しゅよ、もし此處ここに在いまししならば、我わが兄弟きゃうだいは死しなざりしものを。 22 されど今いまにても我われは知しる、何事なにごとを神かみに願ねがひ給たまふとも、神かみは與あたへ給たまはん』 23 イエス言いひ給たまふ『なんぢの兄弟きゃうだいは甦よみがへるべし』 24 マルタ言いふ『をはりの日ひ、復活よみがへりのときに甦よみがへるべきを知しる』 25 イエス言いひ給たまふ『我われは復活よみがへりなり、生命いのちなり、我われを信しんずる者ものは死しぬとも生いきん。 26 凡おほよそ生いきて我われを信しんずる者ものは、永遠󠄄とこしへに死しなざるべし。汝なんぢこれを信しんずるか』 27 彼かれいふ『主しゅよ然しかり、我われなんぢは世よに來きたるべきキリスト、神かみの子こなりと信しんず』 28 かく言いひて後のちゆきて竊ひそかにその姉妹しまいマリヤを呼よびて『師しきたりて汝なんぢを呼よびたまふ』と言いふ。 29 マリヤ之これをきき、急󠄃いそぎ起󠄃たちて御許みもとに往󠄃ゆけり。 30 イエスは未いまだ村むらに入いらず、尙なほマルタの迎󠄃むかへし處ところに居給ゐたまふ。
 207㌻ 
31 マリヤと共ともに家いへに居をりて慰なぐさめ居ゐたるユダヤ人びと、その急󠄃いそぎ立たちて出いでゆくを見み、かれは歎なげかんとて墓はかに往󠄃ゆくと思おもひて後のちに隨したがへり。 32 斯かくてマリヤ、イエスの居給ゐたまふ處ところにいたり、之これを見みてその足下あしもとに伏ふし『主しゅよ、もし此處ここに在いまししならば、我わが兄弟きゃうだいは死しなざりしものを』と言いふ。 33 イエスかれが泣なき居をり、共ともに來きたりしユダヤ人びとも泣なき居をるを見みて、心こゝろを傷いため悲かなしみて言いひ給たまふ、 34 『かれを何處いづこに置おきしか』彼かれら言いふ『主しゅよ、來きたりて見み給たまへ』 35 イエス淚なみだをながし給たまふ。〘151㌻〙 36 爰こゝにユダヤ人びとら言いふ『視みよ、いかばかり彼かれを愛あいせしぞや』 37 その中うちの或ある者ものども言いふ『盲人めしひの目めをあけし此この人ひとにして、彼かれを死しなざらしむること能あたはざりしか』 38 イエスまた心こゝろを傷いためつつ墓はかにいたり給たまふ。墓はかは洞ほらにして石いしを置おきて塞ふさげり。 39 イエス言いひ給たまふ『石いしを除のけよ』死しにし人ひとの姉妹しまいマルタ言いふ『主しゅよ、彼かれははや臭くさし、四日よっかを經へたればなり』 40 イエス言いひ給たまふ『われ汝なんぢに、もし信しんぜば神かみの榮光えいくわうを見みんと言いひしにあらずや』 41 ここに人々ひとびと、石いしを除のけたり。イエス目めを擧あげて言いひたまふ『父󠄃ちちよ、我われにきき給たまひしを謝󠄃しゃす。 42 常つねにきき給たまふを我われは知しる。然しかるに斯かく言いふは、傍かたはらに立たつ群衆ぐんじゅうの爲ためにして、汝なんぢの我われを遣󠄃つかはし給たまひしことを之これに信しんぜしめんとてなり』 43 斯かく言いひてのち、聲こゑ高たかく『ラザロよ、出いで來きたれ』と呼よばはり給たまへば、 44 死しにしもの布ぬのにて足あしと手てとを卷まかれたるまま出いで來きたる、顏かほも手拭てぬぐひにて包󠄃つゝまれたり。イエス『これを解ときて往󠄃ゆかしめよ』と言いひ給たまふ。

45 斯かくてマリヤの許もとに來きたりて、イエスの爲なし給たまひし事ことを見みたる多おほくのユダヤ人びと、かれを信しんじたりしが、 46 或ある者ものはパリサイ人びとに往󠄃ゆきて、イエスの爲なし給たまひし事ことを吿つげたり。
 208㌻ 

47 ここに祭司長さいしちゃう・パリサイ人びとら議會ぎくわいを開ひらきて言いふ『われら如何いかに爲なすべきか、此この人ひとおほくの徴しるしを行おこなふなり。 48 もし彼かれをこのまま捨󠄃すておかば、人々ひとびとみな彼かれを信しんぜん、而しかしてロマ人びときたりて、我われらの土地とちと國人くにびととを奪うばはん』 49 その中うちの一人ひとりにて此この年としの大だい祭司さいしなるカヤパ言いふ『なんぢら何なにをも知しらず。 50 ひとりの人ひと、民たみのために死しにて、國人くにびとすべての滅ほろびぬは、汝なんぢらの益えきなるを思おもはぬなり』 51 これは己おのれより云いへるに非あらず、この年としの大だい祭司さいしなれば、イエスの國人くにびとのため、 52 又󠄂またただに國人くにびとの爲ためのみならず、散ちりたる神かみの子こらを一ひとつに集あつめん爲ために死しに給たまふことを預言よげんしたるなり。 53 彼かれ等らこの日ひよりイエスを殺ころさんと議はかれり。

54 されば此この後のちイエス顯あらはにユダヤ人びとのなかを步あゆみ給たまはず、此處ここを去さりて荒野あらのにちかき處ところなるエフライムといふ町まちに往󠄃ゆき、弟子でしたちと偕ともに其處そこに留とゞまりたまふ。 55 ユダヤ人びとの過󠄃越すぎこしの祭まつり近󠄃ちかづきたれば、多おほくの人々ひとびと身みを潔󠄄きよめんとて、祭まつりのまへに田舍ゐなかよりエルサレムに上のぼれり。 56 彼かれらイエスをたづね、宮みやに立たちて互たがひに言いふ『なんぢら如何いかに思おもふか、彼かれは祭まつりに來きたらぬか』 57 祭司長さいしちゃう・パリサイ人びとらは、イエスを捕とらへんとて、その在處ありかを知しる者ものあらば、吿つげ出いづべく預かねて命令めいれいしたりしなり。〘152㌻〙

第12章

1 過󠄃越すぎこしの祭まつりの六日むゆか前󠄃まへに、イエス、ベタニヤに來きたり給たまふ、ここは死人しにんの中うちより甦よみがへらせ給たまひしラザロの居をる處ところなり。 2 此處ここにてイエスのために饗宴ふるまひを設まうけ、マルタは事つかへ、ラザロはイエスと共ともに席せきに著つける者ものの中うちにあり。 3 マリヤは價あたひ高たかき混まじりなきナルドの香にほひ油あぶら一斤いっきんを持もち來きたりて、イエスの御足みあしにぬり、己おのが頭髮かみのけにて御足みあしを拭ぬぐひしに、香にほひ油あぶらのかをり家いへに滿みちたり。 4 御弟子みでしの一人ひとりにてイエスを賣うらんとするイスカリオテのユダ言いふ、
 209㌻ 
5 『何なにぞこの香にほひ油あぶらを三さん百ひゃくデナリに賣うりて貧󠄃まづしき者ものに施ほどこさざる』 6 かく云いへるは貧󠄃まづしき者ものを思おもふ故ゆゑにあらず、おのれ盜人ぬすびとにして財嚢かねいれを預あづかり、その中なかに納󠄃をさむる物ものを掠かすめゐたればなり。 7 イエス言いひ給たまふ『この女をんなの爲なすに任まかせよ、我わが葬はうむりの日ひのために之これを貯たくはへたるなり。 8 貧󠄃まづしき者ものは常つねに汝なんぢらと偕ともに居をれども、我われは常つねに居をらぬなり』

9 ユダヤの多おほくの民たみども、イエスの此處ここに居給ゐたまふことを知しりて來きたる、これはイエスの爲ためのみにあらず、死人しにんの中うちより甦よみがへらせ給たまひしラザロを見みんとてなり。 10 斯かくて祭司長さいしちゃうら、ラザロをも殺ころさんと議はかる。 11 彼かれのために多おほくのユダヤ人びとさり往󠄃ゆきてイエスを信しんぜし故ゆゑなり。

12 明あくる日ひ、祭まつりに來きたりし多おほくの民たみども、イエスのエルサレムに來きたり給たまふをきき、 13 棕梠しゅろの枝えだをとりて出いで迎󠄃むかへ、『「ホサナ、讃ほむべきかな、主しゅの御名みなによりて來きたる者もの」イスラエルの王わう』と呼よばはる。 14 イエスは小驢馬ころばを得えて之これに乘のり給たまふ。これは錄しるして、 15 『シオンの娘むすめよ、懼おそるな。視みよ、なんぢの王わうは驢馬ろばの子こに乘のりて來きたり給たまふ』と有󠄃あるが如ごとし。 16 弟子でしたちは最初はじめこれらの事ことを悟さとらざりしが、イエスの榮光えいくわうを受うけ給たまひし後のちに、これらの事ことのイエスに就つきて錄しるされたると、人々ひとびとが斯かく爲なししとを思おもひ出いだせり。 17 ラザロを墓はかより呼よび起󠄃おこし、死人しにんの中うちより甦よみがへらせ給たまひし時ときに、イエスと偕ともに居をりし群衆ぐんじゅう、證あかしをなせり。 18 群衆ぐんじゅうのイエスを迎󠄃むかへたるは、斯かゝる徴しるしを行おこなひ給たまひしことを聞ききたるに因よりてなり。 19 パリサイ人びとら互たがひに言いふ『見みるべし、汝なんぢらの謀はかることの益えきなきを。視みよ、世よは彼かれに從したがへり』
 210㌻ 

20 禮拜れいはいせんとて祭まつりに上のぼりたる者ものの中うちに、ギリシヤ人びと數󠄄人すにんありしが、 21 ガリラヤなるベツサイダのピリポに來きたり、請󠄃こひて言いふ『君きみよ、われらイエスに謁まみえんことを願ねがふ』 22 ピリポ往󠄃ゆきてアンデレに吿つげ、アンデレとピリポと共ともに往󠄃ゆきてイエスに吿つぐ。 23 イエス答こたへて言いひ給たまふ『人ひとの子この榮光えいくわうを受うくべき時とききたれり。〘153㌻〙 24 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、一粒ひとつぶの麥むぎ、地ちに落おちて死しなずば、唯一たゞひとつにて在あらん、もし死しなば、多おほくの果みを結むすぶべし。 25 己おのが生命いのちを愛あいする者ものは、これを失うしなひ、この世よにてその生命いのちを憎にくむ者ものは、之これを保たもちて永遠󠄄とこしへの生命いのちに至いたるべし。 26 人ひともし我われに事つかへんとせば、我われに從したがへ、わが居をる處ところに我われに事つかふる者ものもまた居をるべし。人ひともし我われに事つかふることをせば、我わが父󠄃ちちこれを貴たふとび給たまはん。 27 今いまわが心こゝろ騷さわぐ、我われなにを言いふべきか。父󠄃ちちよ、この時ときより我われを[*]救すくひ給たまへ、されど我われこの爲ためにこの時ときに到いたれり。[*或は「救ひ給へといふべきか」と譯す。] 28 父󠄃ちちよ、御名みなの榮光えいくわうをあらはし給たまへ』爰こゝに天てんより聲こゑいでて言いふ『われ旣󠄁すでに榮光えいくわうをあらはしたり、復またさらに顯あらはさん』 29 傍かたはらに立たてる群衆ぐんじゅうこれを聞ききて『雷霆いかづち鳴なれり』と言いひ、ある人々ひとびとは『御使󠄃みつかひかれに語かたれるなり』と言いふ。 30 イエス答こたへて言いひ給たまふ『この聲こゑの來きたりしは、我わが爲ためにあらず、汝なんぢらの爲ためなり。 31 今いまこの世よの審判󠄄さばきは來きたれり、今いまこの世よの君きみは逐󠄃おひ出いださるべし。 32 我われもし地ちより擧あげられなば、凡すべての人ひとをわが許もとに引ひきよせん』 33 かく言いひて、己おのが如何いかなる死しにて死しぬるかを示しめし給たまへり。 34 群衆ぐんじゅうこたふ『われら律法おきてによりて、キリストは永遠󠄄とこしへに存ながらへ給たまふと聞ききたるに、汝なんぢいかなれば人ひとの子こは擧あげらるべしと言いふか、その人ひとの子ことは誰たれなるか』 35 イエス言いひ給たまふ『なほ暫しばし光ひかりは汝なんぢらの中うちにあり、光ひかりのある間まに步あゆみて暗󠄃黑くらきに追󠄃及おひつかれぬやうに爲せよ、暗󠄃くらき中うちを步あゆむ者ものは往󠄃方ゆくてを知しらず。
 211㌻ 
36 光ひかりの子ことならんために光ひかりのある間まに光ひかりを信しんぜよ』   イエス此これ等らのことを語かたりてのち、彼かれらを避󠄃さけて隱かくれ給たまへり。

37 かく多おほくの徴しるしを人々ひとびとの前󠄃まへにおこなひ給たまひたれど、なほ彼かれを信しんぜざりき。 38 これ預言者よげんしゃイザヤの言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。曰いはく 『主しゅよ、我われらに聞ききたる言ことばを誰たれか信しんぜし。 主しゅの御腕みうでは誰たれに顯あらはれし』 39 彼かれらが信しんじ得えざりしは此この故ゆゑなり。即すなはちイザヤまた云いへらく、 40 『彼かれらの眼めを暗󠄃くらくし、心こゝろを頑󠄂固かたくなにし給たまへり。 これ目めにて見み、心こゝろにて悟さとり、 飜ひるがへりて、 我われに醫いやさるる事ことなからん爲ためなり』 41 イザヤの斯かく云いへるは、その榮光えいくわうを見みし故ゆゑにて、イエスに就つきて語かたりしなり。 42 されど司つかさたちの中うちにもイエスを信しんじたるもの多おほかりしが、パリサイ人びとの故ゆゑによりて言いひ顯あらはすことを爲せざりき、除名ぢょめいせられん事ことを恐おそれたるなり。〘154㌻〙 43 彼かれらは神かみの譽ほまれよりも人ひとの譽ほまれを愛めでしなり。

44 イエス呼よばはりて言いひ給たまふ『われを信しんずる者ものは我われを信しんずるにあらず、我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものを信しんじ、 45 我われを見みる者ものは我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものを見みるなり。 46 我われは光ひかりとして世よに來きたれり、すべて我われを信しんずる者ものの暗󠄃黑くらきに居をらざらん爲ためなり。 47 人ひとたとひ我わが言ことばをききて守まもらずとも、我われは之これを審さばかず。夫それわが來きたりしは世よを審さばかん爲ためにあらず、世よを救すくはん爲ためなり。 48 我われを棄すて、我わが言ことばを受うけぬ者ものを審さばく者ものあり、わが語かたれる言ことばこそ終󠄃をはりの日ひに之これを審さばくなれ。 49 我われはおのれに由よりて語かたれるにあらず、我われを遣󠄃つかはし給たまひし父󠄃ちちみづから我わが言いふべきこと、語かたるべきことを命めいじ給たまひし故ゆゑなり。 50 我われその命令めいれいの永遠󠄄とこしへの生命いのちたるを知しる。されば我われは語かたるに、我わが父󠄃ちちの我われに言いひ給たまふままを語かたるなり』

第13章

1 過󠄃越すぎこしのまつりの前󠄃まへに、イエスこの世よを去さりて父󠄃ちちに往󠄃ゆくべき己おのが時ときの來きたれるを知しり、世よに在ある己おのれの者ものを愛あいして極きはみまで之これを愛あいし給たまへり。
 212㌻ 
2 夕餐󠄃ゆふげのとき惡魔󠄃あくま、早はやくもシモンの子こイスカリオテのユダの心こゝろに、イエスを賣うらんとする思おもひを入いれたるが、 3 イエス父󠄃ちちが萬物ばんもつをおのが手てにゆだね給たまひしことと、己おのれの神かみより出いでて神かみに到いたることを知しり、 4 夕餐󠄃ゆふげより起󠄃たちて上衣うはぎをぬぎ、手巾てぬぐひをとりて腰󠄃こしにまとひ、 5 尋󠄃ついで盥たらひに水みづをいれて、弟子でしたちの足あしをあらひ、纒󠄂まとひたる手巾てぬぐひにて之これを拭ぬぐひはじめ給たまふ。 6 斯かくてシモン・ペテロに至いたり給たまへば、彼かれいふ『主しゅよ、汝なんぢわが足あしを洗あらひ給たまふか』 7 イエス答こたへて言いひ給たまふ『わが爲なすことを汝なんぢいまは知しらず、後のちに悟さとるべし』 8 ペテロ言いふ『永遠󠄄とこしへに我わが足あしをあらひ給たまはざれ』イエス答こたへ給たまふ『我われもし汝なんぢを洗あらはずば、汝なんぢわれと關係かゝはりなし』 9 シモン・ペテロ言いふ『主しゅよ、わが足あしのみならず、手てをも頭かしらをも』 10 イエス言いひ給たまふ『すでに浴よくしたる者ものは足あしのほか洗あらふを要󠄃えうせず、全󠄃身ぜんしんきよきなり。斯かく汝なんぢらは潔󠄄きよし、されど悉ことごとくは然しからず』 11 これ己おのれを賣うる者ものの誰たれなるを知しりたまふ故ゆゑに『ことごとくは潔󠄄きよからず』と言いひ給たまひしなり。

12 彼かれらの足あしをあらひ、己おのが上衣うはぎをとり、再ふたゝび席せきにつきて後のちいひ給たまふ『わが汝なんぢらに爲なしたることを知しるか。 13 なんぢら我われを師しまた主しゅととなふ、然しか言いふは宜うべなり、我われは是これなり。 14 我われは主しゅまた師しなるに、尙なほなんぢらの足あしを洗あらひたれば、汝なんぢらも互たがひに足あしを洗あらふべきなり。 15 われ汝なんぢらに模範もはんを示しめせり、わが爲なししごとく、汝なんぢらも爲なさんためなり。〘155㌻〙 16 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、僕しもべはその主しゅよりも大おほいならず。遣󠄃つかはされたる者ものは之これを遣󠄃つかはす者ものよりも大おほいならず。 17 汝なんぢ等らこれらの事ことを知しりて之これを行おこなはば幸福さいはひなり。 18 これ汝なんぢら凡すべての者ものにつきて言いふにあらず、我われはわが選󠄄えらびたる者ものどもを知しる。されど聖󠄃書せいしょに「我われとともにパンを食󠄃くらふ者もの、われに向むかひて踵きびすを擧あげたり」と云いへることは、必かならず成󠄃就じゃうじゅすべきなり。
 213㌻ 
19 今いまその事ことの成󠄃ならぬ前󠄃まへに之これを汝なんぢらに吿つぐ、事ことの成󠄃ならん時とき、わが夫それなるを汝なんぢらの信しんぜんためなり。 20 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、わが遣󠄃つかはす者ものを受うくる者ものは我われをうくるなり。我われを受うくる者ものは我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものを受うくるなり』

21 イエス此これ等らのことを言いひ終󠄃をへて、心こゝろさわぎ證あかしをなして言いひ給たまふ『まことに誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、汝なんぢらの中うちの一人ひとりわれを賣うらん』 22 弟子でしたち互たがひに顏かほを見み合あはせ、誰たれにつきて言いひ給たまふかを訝いぶかる。 23 イエスの愛あいしたまふ一人ひとりの弟子でし、イエスの御胸みむねによりそひ居ゐたれば、 24 シモン・ペテロ首かうべにて示しめし『誰たれのことを言いひ給たまふか、吿つげよ』といふ。 25 彼かれそのまま御胸みむねによりかかりて『主しゅよ、誰たれなるか』と言いひしに、 26 イエス答こたへ給たまふ『わが一撮ひとつまみの食󠄃物くひものを浸󠄃ひたして與あたふる者ものは夫それなり』斯かくて一撮ひとつまみの食󠄃物くひものを浸󠄃ひたしてシモンの子こイスカリオテのユダに與あたへたまふ。 27 ユダ一撮ひとつまみの食󠄃物くひものを受うくるや、惡魔󠄃あくまかれに入いりたり。イエス彼かれに言いひたまふ『なんぢが爲なすことを速󠄃すみやかに爲なせ』 28 席せきに著つきゐたる者ものは一人ひとりとして何なに故ゆゑかく言いひ給たまふかを知しらず。 29 ある人々ひとびとはユダが財嚢かねいれを預あづかるによりて『祭まつりのために要󠄃えうする物ものを買かへ』とイエスの言いひ給たまへるか、また貧󠄃まづしき者ものに何なにか施ほどこさしめ給たまふならんと思おもへり。 30 ユダ一撮ひとつまみの食󠄃物くひものを受うくるや、直たゞちに出いづ、時ときは夜よるなりき。

31 ユダの出いでし後のち、イエス言いひ給たまふ『今いまや人ひとの子こ、榮光えいくわうをうく、神かみも彼かれによりて榮光えいくわうをうけ給たまふ。 32 神かみかれに由よりて榮光えいくわうをうけ給たまはば、神かみも己おのれによりて彼かれに榮光えいくわうを與あたへ給たまはん、直たゞちに與あたへ給たまふべし。 33 若子わくごよ、我われなほ暫しばらく汝なんぢらと偕ともにあり、汝なんぢらは我われを尋󠄃たづねん、然されど曾かつてユダヤ人びとに「なんぢらは我わが往󠄃ゆく處ところに來くること能あたはず」と言いひし如ごとく今いま、汝なんぢらにも然しか言いふなり。
 214㌻ 
34 われ新あたらしき誡命いましめを汝なんぢらに與あたふ、なんぢら相あひ愛あいすべし。わが汝なんぢらを愛あいせしごとく、汝なんぢらも相あひ愛あいすべし。 35 互たがひに相あひ愛あいする事ことをせば、之これによりて人ひとみな汝なんぢらの我わが弟子でしたるを知しらん』

36 シモン・ペテロ言いふ『主しゅよ、何處いづこにゆき給たまふか』イエス答こたへ給たまふ『わが往󠄃ゆく處ところに、なんぢ今いまは從したがふこと能あたはず。されど後のちに從したがはん』〘156㌻〙 37 ペテロ言いふ『主しゅよ、いま從したがふこと能あたはぬは何なに故ゆゑぞ、我われは汝なんぢのために生命いのちを棄すてん』 38 イエス答こたへ給たまふ『なんぢ我わがために生命いのちを棄すつるか、誠󠄃まことにまことに汝なんぢに吿つぐ、なんぢ三度みたびわれを否いなむまでは、鷄にはとり鳴なかざるべし』

第14章

1 『なんぢら心こゝろを騷さわがすな、神かみを信しんじ、また我われを信しんぜよ。 2 わが父󠄃ちちの家いへには住󠄃處すみかおほし、然しからずば我われかねて汝なんぢらに吿つげしならん。われ汝なんぢ等らのために處ところを備そなへに往󠄃ゆく。 3 もし往󠄃ゆきて汝なんぢらの爲ために處ところを備そなへば、復またきたりて汝なんぢらを我わがもとに迎󠄃むかへん、わが居をるところに汝なんぢらも居をらん爲ためなり。 4 汝なんぢらは我わが往󠄃ゆくところに至いたる道󠄃みちを知しる』 5 トマス言いふ『主しゅよ、何處いづこにゆき給たまふかを知しらず、爭いかでその道󠄃みちを知しらんや』 6 イエス彼かれに言いひ給たまふ『われは道󠄃みちなり、眞󠄃理まことなり、生命いのちなり、我われに由よらでは誰たれにても父󠄃ちちの御許みもとにいたる者ものなし。 7 汝なんぢ等らもし我われを知しりたらば我わが父󠄃ちちをも知しりしならん。今いまより汝なんぢら之これを知しる、旣󠄁すでに之これを見みたり』 8 ピリポ言いふ『主しゅよ、父󠄃ちちを我われらに示しめし給たまへ、然さらば足たれり』 9 イエス言いひ給たまふ『ピリポ、我われかく久ひさしく汝なんぢらと偕ともに居をりしに、我われを知しらぬか。我われを見みし者ものは父󠄃ちちを見みしなり、如何いかなれば「我われらに父󠄃ちちを示しめせ」と言いふか。 10 我われの父󠄃ちちに居をり、父󠄃ちちの我われに居給ゐたまふことを信しんぜぬか。わが汝なんぢ等らにいふ言ことばは己おのれによりて語かたるにあらず、父󠄃ちちわれに在いまして御業みわざをおこなひ給たまふなり。
 215㌻ 
11 わが言いふことを信しんぜよ、我われは父󠄃ちちにをり、父󠄃ちちは我われに居給ゐたまふなり。もし信しんぜずば、我わが業わざによりて信しんぜよ。 12 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、我われを信しんずる者ものは我わがなす業わざをなさん、かつ之これよりも大おほいなる業わざをなすべし、われ父󠄃ちちに往󠄃ゆけばなり。 13 汝なんぢらが我わが名なによりて願ねがふことは、我われみな之これを爲なさん、父󠄃ちち、子こによりて榮光えいくわうを受うけ給たまはんためなり。 14 何事なにごとにても我わが名なによりて我われに願ねがはば、我われこれを成󠄃なすべし。 15 汝なんぢ等らもし我われを愛あいせば、我わが誡命いましめを守まもらん。 16 われ父󠄃ちちに請󠄃こはん、父󠄃ちちは他ほかに助主たすけぬしをあたへて、永遠󠄄とこしへに汝なんぢらと偕ともに居をらしめ給たまふべし。 17 これは眞󠄃理しんりの御靈みたまなり、世よはこれを受うくること能あたはず、これを見みず、また知しらぬに因よる。なんぢらは之これを知しる、彼かれは汝なんぢらと偕ともに居をり、また汝なんぢらの中うちに居給ゐたまふべければなり。 18 我われなんぢらを遣󠄃のこして孤兒みなしごとはせず、汝なんぢらに來きたるなり。 19 暫しばらくせば世よは復またわれを見みず、されど汝なんぢらは我われを見みる、われ活いくれば汝なんぢらも活いくべければなり。 20 その日ひには、我われわが父󠄃ちちに居をり、なんぢら我われに居をり、われ汝なんぢらに居をることを汝なんぢら知しらん。 21 わが誡命いましめを保たもちて之これを守まもるものは、即すなはち我われを愛あいする者ものなり。我われを愛あいする者ものは我わが父󠄃ちちに愛あいせられん、我われも之これを愛あいし、之これに己おのれを顯あらはすべし』〘157㌻〙 22 イスカリオテならぬユダ言いふ『主しゅよ、何なに故ゆゑおのれを我われらに顯あらはして、世よには顯あらはし給たまはぬか』 23 イエス答こたへて言いひ給たまふ『人ひともし我われを愛あいせば、わが言ことばを守まもらん、わが父󠄃ちちこれを愛あいし、かつ我等われらその許もとに來きたりて住󠄃處すみかを之これとともに爲せん。 24 我われを愛あいせぬ者ものは、わが言ことばを守まもらず。汝なんぢらが聞きくところの言ことばは、わが言ことばにあらず、我われを遣󠄃つかはし給たまひし父󠄃ちちの言ことばなり。
 216㌻ 

25 此これ等らのことは我われなんぢらと偕ともにありて語かたりしが、 26 助主たすけぬし、即すなはちわが名なによりて父󠄃ちちの遣󠄃つかはしたまふ聖󠄃せい靈れいは、汝なんぢらに萬よろづの事ことををしへ、又󠄂またすべて我わが汝なんぢらに言いひしことを思おもひ出いださしむべし。 27 われ平󠄃安へいあんを汝なんぢらに遺󠄃のこす、わが平󠄃安へいあんを汝なんぢらに與あたふ。わが與あたふるは世よの與あたふる如ごとくならず、汝なんぢら心こゝろを騷さわがすな、また懼おそるな。 28 「われ往󠄃ゆきて汝なんぢらに來きたるなり」と云いひしを汝なんぢら旣󠄁すでに聞きけり。もし我われを愛あいせば父󠄃ちちにわが往󠄃ゆくを喜よろこぶべきなり、父󠄃ちちは我われよりも大おほいなるに因よる。 29 今いまその事ことの成󠄃ならぬ前󠄃さきに、これを汝なんぢらに吿つげたり、事ことの成󠄃ならんとき汝なんぢらの信しんぜんためなり。 30 今いまより後のちわれ汝なんぢらと多おほく語かたらじ、この世よの君きみきたる故ゆゑなり。彼かれは我われに對たいして何なにの權けんもなし、 31 されど斯かくなるは、我われの、父󠄃ちちを愛あいし、父󠄃ちちの命めいじ給たまふところに遵󠄅したがひて行おこなふことを世よの知しらん爲ためなり。起󠄃おきよ、率󠄃いざここを去さるべし。

第15章

1 我われは眞󠄃まことの葡萄ぶだうの樹き、わが父󠄃ちちは農夫のうふなり。 2 おほよそ我われにありて果みを結むすばぬ枝えだは、父󠄃ちちこれを除のぞき、果みを結むすぶものは、いよいよ果みを結むすばせん爲ために之これを潔󠄄きよめたまふ。 3 汝なんぢらは旣󠄁すでに潔󠄄きよし、わが語かたりたる言ことばに因よりてなり。 4 我われに居をれ、[*]さらば我われなんぢらに居をらん。枝えだもし樹きに居をらずば、自みづから果みを結むすぶこと能あたはぬごとく、汝なんぢらも我われに居をらずば亦また然しかり。[*或は「また我を汝らに居らしめよ」と譯す。] 5 我われは葡萄ぶだうの樹き、なんぢらは枝えだなり。人ひともし我われにをり、我われまた彼かれにをらば、多おほくの果みを結むすぶべし。汝なんぢら我われを離はなるれば、何事なにごとをも爲なし能あたはず。 6 人ひともし我われに居をらずば、枝えだのごとく外そとに棄すてられて枯かる、人々ひとびとこれを集あつめ火ひに投なげ入いれて燒やくなり。 7 汝なんぢ等らもし我われに居をり、わが言ことばなんぢらに居をらば、何なににても望󠄇のぞみに隨したがひて求もとめよ、然さらば成󠄃ならん。 8 なんぢら多おほくの果みを結むすばば、わが父󠄃ちちは榮光えいくわうを受うけ給たまふべし、而しかして汝なんぢ等らわが弟子でしとならん。 9 父󠄃ちちの我われを愛あいし給たまひしごとく、我われも汝なんぢらを愛あいしたり、わが愛あいに居をれ。 10 なんぢら若もし、わが誡命いましめをまもらば、我わが愛あいにをらん、我われわが父󠄃ちちの誡命いましめを守まもりて、その愛あいに居をるがごとし。〘158㌻〙
 217㌻ 
11 我われこれらの事ことを語かたりたるは、我わが喜悅よろこびの汝なんぢらに在あり、かつ汝なんぢらの喜悅よろこびの滿みたされん爲ためなり。 12 わが誡命いましめは是これなり、わが汝なんぢらを愛あいせしごとく互たがひに相あひ愛あいせよ。 13 人ひとその友とものために己おのれの生命いのちを棄すつる、之これより大おほいなる愛あいはなし。 14 汝なんぢ等らもし我わが命めいずる事ことをおこなはば、我わが友ともなり。 15 今いまよりのち我われなんぢらを僕しもべといはず、僕しもべは主人しゅじんのなす事ことを知しらざるなり。我われなんぢらを友ともと呼よべり、我わが父󠄃ちちに聽ききし凡すべてのことを汝なんぢらに知しらせたればなり。 16 汝なんぢら我われを選󠄄えらびしにあらず、我われなんぢらを選󠄄えらべり。而しかして汝なんぢらの往󠄃ゆきて果みを結むすび、且かつその果みの殘のこらんために、又󠄂またおほよそ我わが名なによりて父󠄃ちちに求もとむるものを、父󠄃ちちの賜たまはんために汝なんぢらを立たてたり。 17 これらの事ことを命めいずるは、汝なんぢらの互たがひに相あひ愛あいせん爲ためなり。 18 世よもし汝なんぢらを憎にくまば、汝なんぢ等らより先さきに我われを憎にくみたることを知しれ。 19 汝なんぢ等らもし世よのものならば、世よは己おのがものを愛あいするならん。汝なんぢらは世よのものならず、我われなんぢらを世よより選󠄄えらびたり。この故ゆゑに世よは汝なんぢらを憎にくむ。 20 わが汝なんぢらに「僕しもべはその主人しゅじんより大おほいならず」と吿つげし言ことばをおぼえよ。人ひともし我われを責せめしならば、汝なんぢ等らをも責せめ、わが言ことばを守まもりしならば、汝なんぢらの言ことばをも守まもらん。 21 すべて此これ等らのことを我わが名なの故ゆゑに汝なんぢらに爲なさん、それは我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものを知しらぬに因よる。 22 われ來きたりて語かたらざりしならば、彼かれら罪つみなかりしならん。されど今いまはその罪つみいひのがるべき樣やうなし。 23 我われを憎にくむものは我わが父󠄃ちちをも憎にくむなり。 24 我われもし誰たれもいまだ行おこなはぬ事ことを彼かれらの中うちに行おこなはざりしならば、彼かれら罪つみなかりしならん。然されど今いまははや我われをも我わが父󠄃ちちをも見みたり、また憎にくみたり。 25 これは彼かれらの律法おきてに「ひとびと故ゆゑなくして、我われを憎にくめり」と錄しるしたる言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。
 218㌻ 
26 父󠄃ちちの許もとより我わが遣󠄃つかはさんとする助主たすけぬし、即すなはち父󠄃ちちより出いづる眞󠄃理しんりの御靈みたまのきたらんとき、我われにつきて證あかしせん。 27 汝なんぢ等らもまた初はじめより我われとともに在ありたれば證あかしするなり。

第16章

1 我われこれらの事ことを語かたりたるは、汝なんぢらの躓つまづかざらん爲ためなり。 2 人ひとなんぢらを除名ぢょめいすべし、然しかのみならず、汝なんぢらを殺ころす者ものみな自みづから神かみに事つかふと思おもふとき來きたらん。 3 これらの事ことをなすは、父󠄃ちちと我われとを知しらぬ故ゆゑなり。 4 我われこれらの事ことを語かたりたるは、時ときいたりて我わが斯かく言いひしことを汝なんぢらの思おもひいでん爲ためなり。初はじめより此これ等らのことを言いはざりしは、我われなんぢらと偕ともに在ありし故ゆゑなり。 5 今いまわれを遣󠄃つかはし給たまひし者ものにゆく、然しかるに汝なんぢらの中うち、たれも我われに「何處いづこにゆく」と問とふ者ものなし。〘159㌻〙 6 唯たゞこれらの事ことを語かたりしによりて、憂うれひなんぢらの心こゝろにみてり。 7 されど、われ實まことを汝なんぢらに吿つぐ、わが去さるは汝なんぢらの益えきなり。我われさらずば助主たすけぬしなんぢらに來きたらじ、我われゆかば之これを汝なんぢらに遣󠄃つかはさん。 8 かれ來きたらんとき世よをして罪つみにつき、義ぎにつき、審判󠄄さばきにつきて、過󠄃あやまてるを認󠄃みとめしめん。 9 罪つみに就つきてとは、彼かれら我われを信しんぜぬに因よりてなり。 10 義ぎに就つきてとは、われ父󠄃ちちにゆき、汝なんぢら今いまより我われを見みぬに因よりてなり。 11 審判󠄄さばきに就つきてとは、此この世よの君きみさばかるるに因よりてなり。 12 我われなほ汝なんぢらに吿つぐべき事ことあまたあれど、今いまなんぢら得え耐たへず。 13 然されど彼かれすなはち眞󠄃理しんりの御靈みたまきたらん時とき、なんぢらを導󠄃みちびきて眞󠄃理しんりをことごとく悟さとらしめん。かれ己おのれより語かたるにあらず、凡おほよそ聞きくところの事ことを語かたり、かつ來きたらんとする事ことどもを汝なんぢらに示しめさん。 14 彼かれはわが榮光えいくわうを顯あらはさん、それは我わがものを受うけて汝なんぢらに示しめすべければなり。 15 すべて父󠄃ちちの有󠄃もち給たまふものは我わがものなり、此この故ゆゑに我わがものを受うけて汝なんぢらに示しめさんと云いへるなり。 16 暫しばらくせば汝なんぢら我われを見みず、また暫しばらくして我われを見みるべし』 17 爰こゝに弟子でしたちのうち或ある者ものたがひに言いふ『「暫しばらくせば我われを見みず、また暫しばらくして我われを見みるべし」と言いひ、かつ「父󠄃ちちに往󠄃ゆくによりて」と言いひ給たまへるは、如何いかなることぞ』
 219㌻ 
18 復またいふ『この暫しばらくとは如何いかなることぞ、我等われらその言いひ給たまふところを知しらず』 19 イエスその問とはんと思おもへるを知しりて言いひ給たまふ『なんぢら「暫しばらくせば我われを見みず、また暫しばらくして我われを見みるべし」と我わが言いひしを尋󠄃たづねあふか。 20 誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、なんぢらは泣なき悲かなしみ、世よは喜よろこばん。汝なんぢら憂うれふべし、然されどその憂うれひは喜悅よろこびとならん。 21 をんな產うまんとする時ときは憂うれひあり、その期きいたるに因よりてなり。子こを產うみてのちは苦痛くるしみをおぼえず、世よに人ひとの生うまれたる喜悅よろこびによりてなり。 22 斯かく汝なんぢらも今いまは憂うれひあり、然されど我われふたたび汝なんぢらを見みん、その時ときなんぢらの心こゝろ喜よろこぶべし、その喜悅よろこびを奪うばふ者ものなし。 23 かの日ひには汝なんぢら何事なにごとをも我われに問とふまじ。誠󠄃まことにまことに汝なんぢらに吿つぐ、汝なんぢ等らのすべて父󠄃ちちに求もとむる物ものをば、我わが名なによりて賜たまふべし。 24 なんぢら今いままでは何なにをも我わが名なによりて求もとめたることなし。求もとめよ、然さらば受うけん、而しかして汝なんぢらの喜悅よろこびみたさるべし。

25 我われこれらの事ことを譬たとへにて語かたりたりしが、また譬たとへにて語かたらず、明白あらはに父󠄃ちちのことを汝なんぢらに吿つぐるとき來きたらん。 26 その日ひには汝なんぢ等らわが名なによりて求もとめん。我われは汝なんぢらの爲ために父󠄃ちちに請󠄃こふと言いはず、〘160㌻〙 27 父󠄃ちちみづから汝なんぢらを愛あいし給たまへばなり。これ汝なんぢ等らわれを愛あいし、また我われの父󠄃ちちより出いで來きたりしことを信しんじたるに因よる。 28 われ父󠄃ちちより出いでて世よにきたれり、また世よを離はなれて父󠄃ちちに往󠄃ゆくなり』 29 弟子でしたち言いふ『視みよ、今いまは明白あらはに語かたりて聊いさゝかも譬たとへをいひ給たまはず。 30 我われら今いまなんぢの知しり給たまはぬ所󠄃ところなく、また人ひとの汝なんぢに問とふを待まち給たまはぬことを知しる。之これによりて汝なんぢの神かみより出いできたり給たまひしことを信しんず』
 220㌻ 
31 イエス答こたへ給たまふ『なんぢら今いま、信しんずるか。 32 視みよ、なんぢら散ちらされて各自おのおのおのが處ところにゆき、我われをひとり遺󠄃のこすとき到いたらん、否いなすでに到いたれり。然されど我われひとり居をるにあらず、父󠄃ちちわれと偕ともに在いますなり。 33 此これ等らのことを汝なんぢらに語かたりたるは、汝なんぢら我われに在ありて平󠄃安へいあんを得えんが爲ためなり。なんぢら世よにありては患難なやみあり、されど雄々をゝしかれ。我われすでに世よに勝󠄃かてり』

第17章

1 イエスこれらの事ことを語かたりはて、目めを擧あげ天てんを仰あふぎて言いひ給たまふ『父󠄃ちちよ、時とき來きたれり、子こが汝なんぢの榮光えいくわうを顯あらはさんために、汝なんぢの子この榮光えいくわうを顯あらはしたまへ。 2 汝なんぢより賜たまはりし凡すべての者ものに、永遠󠄄とこしへの生命いのちを與あたへしめんとて、萬民ばんみんを治をさむる權威󠄂けんゐを子こに賜たまひたればなり。 3 永遠󠄄とこしへの生命いのちは、唯一ゆゐいつの眞󠄃まことの神かみに在います汝なんぢと汝なんぢの遣󠄃つかはし給たまひしイエス・キリストとを知しるにあり。 4 我われに成󠄃なさしめんとて汝なんぢの賜たまひし業わざを成󠄃なし遂󠄅とげて、我われは地上ちじゃうに汝なんぢの榮光えいくわうをあらはせり。 5 父󠄃ちちよ、まだ世よのあらぬ前󠄃さきにわが汝なんぢと偕ともにもちたりし榮光えいくわうをもて、今いま御前󠄃みまへにて我われに榮光えいくわうあらしめ給たまへ。 6 世よの中うちより我われに賜たまひし人々ひとびとに我われ、御名みなをあらはせり。彼かれらは汝なんぢの有󠄃ものなるを我われに賜たまへり、而しかして彼かれらは汝なんぢの言ことばを守まもりたり。 7 今いまかれらは、凡すべて我われに賜たまひしものの汝なんぢより出いづるを知しる。 8 我われは我われに賜たまひし言ことばを彼かれらに與あたへ、彼かれらは之これを受うけ、わが汝なんぢより出いでたるを眞󠄃まことに知しり、なんぢの我われを遣󠄃つかはし給たまひしことを信しんじたるなり。 9 我われかれらの爲ために願ねがふ、わが願ねがふは世よのためにあらず、汝なんぢの我われに賜たまひたる者もののためなり、彼かれらは即すなはち汝なんぢのものなり。 10 我わがものは皆みななんぢの有󠄃もの、なんぢの有󠄃ものは我わがものなり、我われかれらより榮光えいくわうを受うけたり。 11 今いまより我われは世よに居をらず、彼かれらは世よに居をり、我われは汝なんぢにゆく。聖󠄃せいなる父󠄃ちちよ、我われに賜たまひたる汝なんぢの御名みなの中うちに彼かれらを守まもりたまへ。これ我等われらのごとく、彼かれらの一ひとつとならん爲ためなり。
 221㌻ 
12 我われかれらと偕ともにをる間あひだ、われに賜たまひたる汝なんぢの御名みなの中うちに彼かれらを守まもり、かつ保護ほごしたり。其そのうち一人ひとりだに亡ほろびず、ただ亡ほろびの子このみ亡ほろびたり、聖󠄃書せいしょの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。〘161㌻〙 13 今いまは我われなんぢに往󠄃ゆく、而しかして此これ等らのことを世よに在ありて語かたるは、我わが喜悅よろこびを彼かれらに全󠄃まったからしめん爲ためなり。 14 我われは御言みことばを彼かれらに與あたへたり、而しかして世よは彼かれらを憎にくめり、我われの世よのものならぬごとく、彼かれらも世よのものならぬに因よりてなり。 15 わが願ねがふは、彼かれらを世よより取とり給たまはんことならず、[*]惡あくより免まぬからせ給たまはんことなり。[*或は「惡しき者」と譯す。] 16 我われの世よのものならぬ如ごとく、彼かれらも世よのものならず。 17 眞󠄃理まことにて彼かれらを潔󠄄きよめ別わかちたまへ、汝なんぢの御言みことばは眞󠄃理まことなり。 18 汝なんぢわれを世よに遣󠄃つかはし給たまひし如ごとく、我われも彼かれらを世よに遣󠄃つかはせり。 19 また彼かれ等らのために我われは己おのれを潔󠄄きよめわかつ、これ眞󠄃理まことにて彼かれらも潔󠄄きよめ別わかたれん爲ためなり。 20 我われかれらの爲ためのみならず、その言ことばによりて我われを信しんずる者もののためにも願ねがふ。 21 これ皆みな一ひとつとならん爲ためなり。父󠄃ちちよ、なんぢ我われに在いまし、我われなんぢに居をるごとく、彼かれらも我われらに居をらん爲ためなり、是これなんぢの我われを遣󠄃つかはし給たまひしことを世よの信しんぜん爲ためなり。 22 我われは汝なんぢの我われに賜たまひし榮光えいくわうを彼かれらに與あたへたり、是これわれらの一ひとつなる如ごとく、彼かれらも一ひとつとならん爲ためなり。 23 即すなはち我われかれらに居をり、汝なんぢわれに在いまし、彼かれら一ひとつとなりて全󠄃まったくせられん爲ためなり、是これなんぢの我われを遣󠄃つかはし給たまひしことと、我われを愛あいし給たまふごとく彼かれらをも愛あいし給たまふこととを、世よの知しらん爲ためなり。 24 父󠄃ちゝよ、望󠄇のぞむらくは、我われに賜たまひたる人々ひとびとの我わが居をるところに我われと偕ともにをり、世よの創はじめの前󠄃さきより我われを愛あいし給たまひしによりて、汝なんぢの我われに賜たまひたる我わが榮光えいくわうを見みんことを。 25 正たゞしき父󠄃ちちよ、げに世よは汝なんぢを知しらず、然されど我われは汝なんぢを知しり、この者ものどもも汝なんぢの我われを遣󠄃つかはし給たまひしことを知しれり。
 222㌻ 
26 われ御名みなを彼かれらに知しらしめたり、復またこれを知しらしめん。これ我われを愛あいし給たまひたる愛あいの、彼かれらに在ありて、我われも彼かれらに居をらん爲ためなり』

第18章

1 此これ等らのことを言いひ終󠄃をへて、イエス弟子でしたちと偕ともにケデロンの小川をがはの彼方かなたに出いでたまふ。彼處かしこに園そのあり、イエス弟子でしたちとともども入いり給たまふ。 2 ここは弟子でしたちと屡々しばしばあつまり給たまふ處ところなれば、イエスを賣うるユダもこの處ところを知しれり。 3 斯かくてユダは一組ひとくみの兵隊󠄄へいたいと祭司長さいしちゃう・パリサイ人びと等らよりの下役したやくどもとを受うけて、炬󠄂火たいまつ・燈火ともしび・武器ぶきを携たづさへて此處ここにきたる。 4 イエス己おのれに臨のぞまんとする事ことをことごとく知しり、進󠄃すゝみいでて彼かれらに言いひたまふ『誰たれを尋󠄃たづぬるか』 5 答こたふ『ナザレのイエスを』イエス言いひたまふ『我われはそれなり』イエスを賣うるユダも彼かれらと共ともに立たてり。 6 『我われはそれなり』と言いひ給たまひし時とき、かれら後退󠄃あとしざりして地ちに倒たふれたり。〘162㌻〙 7 爰こゝに再ふたゝび『たれを尋󠄃たづぬるか』と問とひ給たまへば『ナザレのイエスを』と言いふ。 8 イエス答こたへ給たまふ『われは夫それなりと旣󠄁すでに吿つげたり、我われを尋󠄃たづぬるならば此この人々ひとびとの去さるを容ゆるせ』 9 これ曩さきに『なんぢの我われに賜たまひし者ものの中うちよりわれ一人ひとりをも失うしなはず』と言いひ給たまひし言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。 10 シモン・ペテロ劍つるぎをもちたるが、之これを拔ぬき大だい祭司さいしの僕しもべを擊うちて、その右みぎの耳みみを斬きり落おとす、僕しもべの名なはマルコスと云いふ。 11 イエス、ペテロに言いひたまふ『劍つるぎを鞘さやに收をさめよ、父󠄃ちちの我われに賜たまひたる酒杯さかづきは、われ飮のまざらんや』

12 爰こゝにかの兵隊󠄄へいたい・千卒長せんそつちゃう・ユダヤ人びとの下役したやくども、イエスを捕とらへ、縛󠄃しばりて先まづアンナスの許もとに曳ひき往󠄃ゆく、 13 アンナスはその年としの大だい祭司さいしなるカヤパの舅しうとなり。
 223㌻ 
14 カヤパは曩さきにユダヤ人びとに、一人ひとり、民たみのために死しぬるは益えきなる事ことを勸󠄂すゝめし者ものなり。

15 シモン・ペテロ及および他ほかの一人ひとりの弟子でし、イエスに從したがふ。この弟子でしは大だい祭司さいしに知しられたる者ものなれば、イエスと共ともに大だい祭司さいしの庭󠄄にはに入いりしが、 16 ペテロは門かどの外そとに立たてり。ここに大だい祭司さいしに知しられたる彼かの弟子でしいでて、門かどを守まもる女をんなに物もの言いひてペテロを連󠄃つれ入いれしに、 17 門かどを守まもる婢女はしため、ペテロに言いふ『なんぢも彼かの人ひとの弟子でしの一人ひとりなるか』かれ言いふ『然しからず』 18 時とき寒󠄃さむくして僕しもべ・下役したやくども炭󠄃火すみびを熾おこし、その傍かたはらに立たちて煖あたゝまり居をりしに、ペテロも共ともに立たちて煖あたゝまりゐたり。

19 ここに大だい祭司さいし、イエスにその弟子でしとその敎をしへとにつきて問とひたれば、 20 イエス答こたへ給たまふ『われ公󠄃然おほやけに世よに語かたれり、凡すべてのユダヤ人びとの相あひ集つどふ會堂くわいだうと宮みやとにて常つねに敎をしへ、密ひそかには何なにをも語かたりし事ことなし。 21 何なにゆゑ我われに問とふか、我わが語かたれることは聽ききたる人々ひとびとに問とへ。視みよ、彼かれらは我わが言いひしことを知しるなり』 22 斯かく言いひ給たまふとき、傍かたはらに立たつ下役したやくの一人ひとり、手掌てのひらにてイエスを打うちて言いふ『かくも大だい祭司さいしに答こたふるか』 23 イエス答こたへ給たまふ『わが語かたりし言こと、もし惡あしくば、その惡あしき故ゆゑを證あかしせよ。善よくば何なにとて打うつぞ』 24 爰こゝにアンナス、イエスを縛󠄃しばりたるままにて、大だい祭司さいしカヤパの許もとに送󠄃おくれり。

25 シモン・ペテロ立たちて煖あたゝまり居ゐたるに、人々ひとびといふ『なんぢも彼かれが弟子でしの一人ひとりなるか』否いなみて言いふ『然しからず』 26 大だい祭司さいしの僕しもべの一人ひとりにて、ペテロに耳みみを斬きり落おとされし者ものの親族しんぞくなるが言いふ『われ汝なんぢが園そのにて彼かれと偕ともなるを見みしならずや』
 224㌻ 
27 ペテロまた否いなむ折をりしも鷄にはとり鳴なきぬ。

28 斯かくて人々ひとびとイエスをカヤパの許もとより官邸くわんていにひきゆく、時ときは夜明よあけなり。彼かれら過󠄃越すぎこしの食󠄃しょくをなさんために、汚穢けがれを受うけじとて己おのれらは官邸くわんていに入いらず。〘163㌻〙 29 爰こゝにピラト彼かれらの前󠄃まへに出いでゆきて言いふ『この人ひとに對たいして如何いかなる訴訟󠄃うったへをなすか』 30 答こたへて言いふ『もし惡あくをなしたる者ものならずば汝なんぢに付わたさじ』 31 ピラト言いふ『なんぢら彼かれを引取ひきとり、おのが律法おきてに循したがひて審さばけ』ユダヤ人びといふ『我われらに人ひとを殺ころす權威󠄂けんゐなし』 32 これイエス己おのが如何いかなる死しにて死しぬるかを示しめして言いひ給たまひし御言みことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。

33 爰こゝにピラトまた官邸くわんていに入いり、イエスを呼よび出いだして言いふ『なんぢはユダヤ人びとの王わうなるか』 34 イエス答こたへ給たまふ『これは汝なんぢおのれより言いふか、將はたわが事ことを人ひとの汝なんぢに吿つげたるか』 35 ピラト答こたふ『我われはユダヤ人びとならんや、汝なんぢの國人くにびと・祭司長さいしちゃうら汝なんぢを我われに付わたしたり、汝なんぢなにを爲なししぞ』 36 イエス答こたへ給たまふ『わが國くにはこの世よのものならず、若もし我わが國くにこの世よのものならば、我わが僕しもべら我われをユダヤ人びとに付わたさじと戰たゝかひしならん。然されど我わが國くには此この世よよりのものならず』 37 爰こゝにピラト言いふ『されば汝なんぢは王わうなるか』イエス答こたへ給たまふ『われの王わうたることは汝なんぢの言いへるごとし。我われは之これがために生うまれ、之これがために世よに來きたれり、即すなはち眞󠄃理しんりにつきて證あかしせん爲ためなり。凡すべて眞󠄃理しんりに屬ぞくする者ものは我わが聲こゑをきく』 38 ピラト言いふ『眞󠄃理しんりとは何なにぞ』   かく言いひて再ふたゝびユダヤ人びとの前󠄃まへに出いでて言いふ『我われこの人ひとに何なにの罪つみあるをも見みず。

39 過󠄃越すぎこしのとき我われなんぢらに一人ひとりの囚人めしうどを赦ゆるす例れいあり、されば汝なんぢらユダヤ人びとの王わうをわが赦ゆるさんことを望󠄇のぞむか』 40 彼かれらまた叫さけびて『この人ひとならず、バラバを』と言いふ、バラバは强盜がうたうなり。
 225㌻ 

第19章

1 爰こゝにピラト、イエスをとりて鞭むちうつ。 2 兵卒へいそつども茨いばらにて冠冕󠄅かんむりをあみ、その首かうべにかむらせ、紫色むらさきの上衣うはぎをきせ、 3 御許みもとに進󠄃すゝみて言いふ『ユダヤ人びとの王わうやすかれ』而しかして手掌てのひらにて打うてり。 4 ピラト再ふたゝび出いでて人々ひとびとにいふ『視みよ、この人ひとを汝なんぢらに引ひき出いだす、これは何なにの罪つみあるをも我わが見みぬことを汝なんぢらの知しらん爲ためなり』 5 爰こゝにイエス茨いばらの冠冕󠄅かんむりをかむり、紫色むらさきの上衣うはぎをきて出いで給たまへば、ピラト言いふ『視みよ、この人ひとなり』 6 祭司長さいしちゃう・下役したやくどもイエスを見みて叫さけびいふ『十字架じふじかにつけよ、十字架じふじかにつけよ』ピラト言いふ『なんぢら自みづからとりて十字架じふじかにつけよ、我われは彼かれに罪つみあるを見みず』 7 ユダヤ人びとこたふ『我われらに律法おきてあり、その律法おきてによれば死しに當あたるべき者ものなり、彼かれはおのれを神かみの子ことなせり』 8 ピラトこの言ことばをききて增々ますますおそれ、 9 再ふたゝび官邸くわんていに入いりてイエスに言いふ『なんぢは何處いづこよりぞ』イエス答こたへをなし給たまはず。〘164㌻〙 10 ピラト言いふ『われに語かたらぬか、我われになんぢを赦ゆるす權威󠄂けんゐあり、また十字架じふじかにつくる權威󠄂けんゐあるを知しらぬか』 11 イエス答こたへ給たまふ『なんぢ上うへより賜たまはらずば、我われに對たいして何なにの權威󠄂けんゐもなし。この故ゆゑに我われをなんぢに付わたしし者ものの罪つみは更󠄃さらに大おほいなり』 12 斯こゝにおいてピラト、イエスを赦ゆるさんことを力つとむ。然されどユダヤ人びとさけびて言いふ『なんぢ若もしこの人ひとを赦ゆるさば、カイザルの忠臣ちゅうしんにあらず、凡おほよそおのれを王わうとなす者ものはカイザルに叛󠄃そむくなり』 13 ピラトこれらの言ことばをききてイエスを外そとにひきゆき、敷󠄃石しきいし(ヘブル語ごにてガバタ)といふ處ところにて審判󠄄さばきの座ざにつく。 14 この日ひは過󠄃越すぎこしの準備そなへ日びにて、時ときは[*]第六時だいろくじごろなりき。ピラト、ユダヤ人びとにいふ『視みよ、なんぢらの王わうなり』[*今の正午頃ならん。] 15 かれら叫さけびていふ『除のぞけ、除のぞけ、十字架じふじかにつけよ』ピラト言いふ『われ汝なんぢらの王わうを十字架じふじかにつくべけんや』祭司長さいしちゃうら答こたふ『カイザルの他ほかわれらに王わうなし』
 226㌻ 
16 爰こゝにピラト、イエスを十字架じふじかに釘つくるために彼かれらに付わたせり。 17 彼かれらイエスを受取うけとりたれば、イエス己おのれに十字架じふじかを負󠄅おひて髑髏されかうべ(ヘブル語ごにてゴルゴダ)といふ處ところに出いでゆき給たまふ。 18 其處そこにて彼かれらイエスを十字架じふじかにつく。又󠄂またほかに二人ふたりの者ものをともに十字架じふじかにつけ、一人ひとりを右みぎに、一人ひとりを左ひだりに、イエスを眞󠄃中まなかに置おけり。 19 ピラト罪標すてふだを書かきて十字架じふじかの上うへに掲かゝぐ『ユダヤ人びとの王わう、ナザレのイエス』と記しるしたり。 20 イエスを十字架じふじかにつけし處ところは都みやこに近󠄃ちかければ、多おほくのユダヤ人びとこの標ふだを讀よむ、標ふだはヘブル、ロマ、ギリシヤの語ことばにて記しるしたり。 21 爰こゝにユダヤ人びとの祭司長さいしちゃうらピラトに言いふ『ユダヤ人びとの王わうと記しるさず、我われはユダヤ人びとの王わうなりと自稱󠄄じしょうせりと記しるせ』 22 ピラト答こたふ『わが記しるしたることは記しるしたるままに』

23 兵卒へいそつどもイエスを十字架じふじかにつけし後のち、その衣ころもをとりて四よつに分󠄃わけ、おのおの其その一ひとつを得えたり。また下衣したぎを取とりしが、下衣したぎは縫󠄃目ぬひめなく、上うへより惣すべて織おりたる物ものなれば、 24 兵卒へいそつども互たがひにいふ『これを裂さくな、誰たれがうるか䰗くじにすべし』これは聖󠄃書せいしょの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。曰いはく『かれら互たがひにわが衣ころもをわけ、わが衣きぬを䰗くじにせり』兵卒へいそつども斯かくなしたり。 25 さてイエスの十字架じふじかの傍かたはらには、その母ははと母ははの姉妹しまいと、クロパの妻つまマリヤとマグダラのマリヤと立たてり。 26 イエスその母ははとその愛あいする弟子でしとの近󠄃ちかく立たてるを見みて、母ははに言いひ給たまふ『をんなよ、視みよ、なんぢの子こなり』 27 また弟子でしに言いひたまふ『視みよ、なんぢの母ははなり』この時ときより、その弟子でしかれを己おのが家いへに接うけたり。〘165㌻〙

28 この後のちイエス萬よろづの事ことの終󠄃をはりたるを知しりて、――聖󠄃書せいしょの全󠄃まったうせられん爲ために――『われ渇かわく』と言いひ給たまふ。 29 ここに酸すき葡萄酒ぶだうしゅの滿みちたる器うつはあり、その葡萄酒ぶだうしゅのふくみたる海綿うみわたをヒソプに著つけてイエスの口くちに差附さしつく。
 227㌻ 
30 イエスその葡萄酒ぶだうしゅをうけて後のちいひ給たまふ『事こと畢をはりぬ』遂󠄅つひに首かうべをたれて靈れいをわたし給たまふ。

31 この日ひは準備そなへ日びなれば、ユダヤ人びと、安息あんそく日にちに屍體しかばねを十字架じふじかのうへに留とどめおかじとて(殊ことにこの度たびの安息あんそく日にちは大おほいなる日ひなるにより)ピラトに、彼かれらの脛はぎををりて屍體しかばねを取除とりのぞかんことを請󠄃こふ。 32 ここに兵卒へいそつども來きたりて、イエスとともに十字架じふじかに釘つけられたる第一だいいちの者ものと他ほかのものとの脛はぎを折をり、 33 而しかしてイエスに來きたりしに、はや死しに給たまふを見みて、その脛はぎを折をらず。 34 然しかるに一人ひとりの兵卒へいそつ、鎗やりにてその脅わきをつきたれば、直たゞちに血ちと水みづと流ながれいづ。 35 之これを見みしもの證あかしをなす、其その證あかしは眞󠄃まことなり、彼かれはその言いふことの眞󠄃まことなるを知しる、これ汝なんぢ等らにも信しんぜしめん爲ためなり。 36 此これ等らのことの成󠄃なりたるは『その骨ほねくだかれず』とある聖󠄃せい句くの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。 37 また他ほかに『かれら己おのが刺さしたる者ものを見みるべし』と云いへる聖󠄃せい句くあり。

38 この後のち、アリマタヤのヨセフとてユダヤ人びとを懼おそれ、密ひそかにイエスの弟子でしたりし者もの、イエスの屍體しかばねを引ひき取とらんことをピラトに請󠄃こひたれば、ピラト許ゆるせり、乃すなはち往󠄃ゆきてその屍體しかばねを引取ひきとる。 39 また曾かつて夜よる、御許みもとに來きたりしニコデモも、沒藥もつやく・沈香ちんかうの混和物あはせものを百ひゃく斤きんばかり携たづさへて來きたる。 40 ここに彼かれらイエスの屍體しかばねをとり、ユダヤ人びとの葬はうむりの習󠄃慣ならはしにしたがひて、香料かうれうとともに布ぬのにて卷まけり。 41 イエスの十字架じふじかにつけられ給たまひし處ところに園そのあり、園そのの中うちにいまだ人ひとを葬はうむりしことなき新あたらしき墓はかあり。 42 ユダヤ人びとの準備そなへ日びなれば、この墓はかの近󠄃ちかきままに其處そこにイエスを納󠄃をさめたり。
 228㌻ 

第20章

1 一週󠄃ひとまはりのはじめの日ひ、朝󠄃あさまだき暗󠄃くらきうちに、マグダラのマリヤ、墓はかにきたりて墓はかより石いしの取除とりのぞけあるを見みる。 2 乃すなはち走はしりゆき、シモン・ペテロとイエスの愛あいし給たまひしかの弟子でしとの許もとに到いたりて言いふ『たれか主しゅを墓はかより取去とりされり、何處いづこに置おきしか我われら知しらず』 3 ペテロと、かの弟子でしといでて墓はかにゆく。 4 二人ふたりともに走はしりたれど、かの弟子でしペテロより疾とく走はしりて先さきに墓はかにいたり、 5 屈かゞみて布ぬのの置おきたるを見みれど、內うちには入いらず。 6 シモン・ペテロ後おくれ來きたり、墓はかに入いりて布ぬのの置おきたるを視み、 7 また首かうべを包󠄃つゝみし手拭てぬぐひは布ぬのとともに在あらず、他ほかのところに卷まきてあるを見みる。〘166㌻〙 8 先さきに墓はかにきたれる彼かの弟子でしもまた入いり、之これを見みて信しんず。 9 彼かれらは聖󠄃書せいしょに錄しるしたる、死人しにんの中うちよりその甦よみがへり給たまふべきことを未いまだ悟さとらざりしなり。 10 遂󠄅つひに二人ふたりの弟子でしおのが家いへにかへれり。

11 然されどマリヤは墓はかの外そとに立たちて泣なき居をりしが、泣なきつつ屈かがみて、墓はかの內うちを見みるに、 12 イエスの屍體しかばねの置おかれし處ところに白しろき衣ころもをきたる二人ふたりの御使󠄃みつかひ、首かうべの方かたにひとり足あしの方かたにひとり坐ざしゐたり。 13 而しかしてマリヤに言いふ『をんなよ、何なにぞ泣なくか』マリヤ言いふ『誰たれか、わが主しゅを取去とりされり、何處いづこに置おきしか我われしらず』 14 かく言いひて後うしろに振反ふりかへれば、イエスの立たち居給ゐたまふを見みる、然されどイエスたるを知しらず。 15 イエス言いひ給たまふ『をんなよ、何なにぞ泣なく、誰たれを尋󠄃たづぬるか』マリヤは園守そのもりならんと思おもひて言いふ『君きみよ、汝なんぢもし彼かれを取去とりさりしならば、何處いづこに置おきしかを吿つげよ、われ引取ひきとるべし』 16 イエス『マリヤよ』と言いひ給たまふ。マリヤ振反ふりかへりて『ラボニ』(釋とけば師しよ)と言いふ。 17 イエス言いひ給たまふ『われに觸さはるな、我われいまだ父󠄃ちちの許もとに昇のぼらぬ故ゆゑなり。我わが兄弟きゃうだいたちに往󠄃ゆきて「我われはわが父󠄃ちち、即すなはち汝なんぢらの父󠄃ちち、わが神かみ、即すなはち汝なんぢらの神かみに昇のぼる」といへ』 18 マグダラのマリヤ往󠄃ゆきて弟子でしたちに『われは主しゅを見みたり』と吿つげ、また云々しかしかの事ことを言いひ給たまひしと吿つげたり。

19 この日ひ、即すなはち一週󠄃ひとまはりのはじめの日ひの夕ゆふべ、弟子でしたちユダヤ人びとを懼おそるるに因よりて居をるところの戶とを閉とぢおきしに、イエスきたり彼かれらの中なかに立たちて言いひたまふ『平󠄃安へいあんなんぢらに在あれ』
 229㌻ 
20 斯かく言いひてその手てと脅わきとを見みせたまふ、弟子でしたち主しゅを見みて喜よろこべり。 21 イエスまた言いひたまふ『平󠄃安へいあんなんぢらに在あれ、父󠄃ちちの我われを遣󠄃つかはし給たまへるごとく、我われも亦またなんぢらを遣󠄃つかはす』 22 斯かく言いひて、息いきを吹ふきかけ言いひたまふ『聖󠄃せい靈れいをうけよ。 23 汝なんぢら誰たれの罪つみを赦ゆるすとも其その罪つみゆるされ、誰たれの罪つみを留とゞむるとも其その罪つみとどめらるべし』

24 イエス來きたり給たまひしとき、十二じふに弟子でしの一人ひとりデドモと稱󠄄となふるトマスともに居をらざりしかば、 25 他ほかの弟子でしこれに言いふ『われら主しゅを見みたり』トマスいふ『我われはその手てに釘くぎの痕あとを見み、わが指ゆびを釘くぎの痕あとにさし入いれ、わが手てをその脅わきに差入さしいるるにあらずば信しんぜじ』

26 八日やうかののち弟子でし等たちまた家いへにをり、トマスも偕ともに居をりて戶とを閉とぢおきしに、イエス來きたり、彼かれらの中なかに立たちて言いひたまふ『平󠄃安へいあんなんぢらに在あれ』 27 またトマスに言いひ給たまふ『なんぢの指ゆびをここに伸のべて、わが手てを見みよ、汝なんぢの手てをのべて、我わが脅わきにさしいれよ、信しんぜぬ者ものとならで信しんずる者ものとなれ』〘167㌻〙 28 トマス答こたへて言いふ『わが主しゅよ、わが神かみよ』 29 イエス言いひ給たまふ『なんぢ我われを見みしによりて[*]信しんじたり、見みずして信しんずる者ものは幸福さいはひなり』[*或は「信ずるか」と譯す。]

30 この書ふみに錄しるさざる外ほかの多おほくの徴しるしを、イエス弟子でしたちの前󠄃まへにて行おこなひ給たまへり。 31 されど此これ等らの事ことを錄しるししは、汝なんぢ等らをしてイエスの神かみの子こキリストたることを信しんぜしめ、信しんじて御名みなにより生命いのちを得えしめんが爲ためなり。
 230㌻ 

第21章

1 この後のち、イエス復またテベリヤの海邊󠄎うみべにて己おのれを弟子でしたちに現あらはし給たまふ、その現あらはれ給たまひしこと左さのごとし。 2 シモン・ペテロ、デドモと稱󠄄となふるトマス、ガリラヤのカナのナタナエル、ゼベダイの子こら及およびほかの弟子でし二人ふたりもともに居をりしに、 3 シモン・ペテロ『われ漁獵すなどりにゆく』と言いへば、彼かれら『われらも共ともに往󠄃ゆかん』と言いひ、皆みないでて舟ふねに乘のりしが、その夜よは何なにをも得えざりき。 4 夜明よあけの頃ころイエス岸きしに立たち給たまふに、弟子でしたち其そのイエスなるを知しらず。 5 イエス言いひ給たまふ『子こどもよ、獲え物ものありしか』彼かれら『なし』と答こたふ。 6 イエス言いひたまふ『舟ふねの右みぎのかたに網󠄄あみをおろせ、然さらば獲え物ものあらん』乃すなはち網󠄄あみを下おろしたるに、魚うを夥多おびたゞしくして、網󠄄あみを曳ひき上あぐること能あたはざりしかば、 7 イエスの愛あいし給たまひし弟子でし、ペテロに言いふ『主しゅなり』シモン・ペテロ『主しゅなり』と聞ききて、裸はだかなりしを上衣うはぎをまとひて海うみに飛とびいれり。 8 他ほかの弟子でしたちは陸をかを離はなるること遠󠄄とほからず、僅わづかに五十間ごじっけんばかりなりしかば、魚うをの入いりたる網󠄄あみを小舟こぶねにて曳ひき來きたり、 9 陸をかに上のぼりて見みれば、炭󠄃火すみびありてその上うへに肴さかなあり、又󠄂またパンあり。 10 イエス言いひ給たまふ『なんぢらの今いまとりたる肴さかなを少すこし持もちきたれ』 11 シモン・ペテロ舟ふねに往󠄃ゆきて網󠄄あみを陸をかに曳ひき上あげしに、百ひゃく五ご十じふ三さん尾びの大おほいなる魚うを滿みちたり、斯かく多おほかりしが網󠄄あみは裂さけざりき。 12 イエス言いひ給たまふ『きたりて[*]食󠄃しょくせよ』弟子でしたちその主しゅなるを知しれば『なんぢは誰たれぞ』と敢あへて問とふ者ものもなし。[*或は「朝󠄃餐󠄃せよ」と譯す。] 13 イエス進󠄃すゝみてパンをとり彼かれらに與あたへ、肴さかなをも然しかなし給たまふ。 14 イエス死人しにんの中うちより甦よみがへりてのち、弟子でしたちに現あらはれ給たまひし事こと、これにて三度みたびなり。

15 斯かくて食󠄃しょくしたる後のち、イエス、シモン・ペテロに言いひ給たまふ『ヨハネの子こシモンよ、汝なんぢこの者ものどもに勝󠄃まさりて我われを[*]愛あいするか』ペテロいふ『主しゅよ、然しかり、わが汝なんぢを[△]愛あいする事ことは、なんぢ知しり給たまふ』イエス言いひ給たまふ『わが羔羊こひつじを養󠄄やしなへ』[*と△と原語を異にす。]
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16 また二度ふたゝびいひ給たまふ『ヨハネの子こシモンよ、我われを[*]愛あいするか』ペテロ言いふ『主しゅよ、然しかり、わが汝なんぢを[△]愛あいする事ことは、なんぢ知しり給たまふ』イエス言いひ給たまふ『わが羊ひつじを牧かへ』[*と△と原語を異にす。]〘168㌻〙 17 三度みたびいひ給たまふ『ヨハネの子こシモンよ、我われを[△]愛あいするか』ペテロ三度みたび『われを[△]愛あいするか』と言いひ給たまふを憂うれひて言いふ『主しゅよ、知しりたまはぬ處ところなし、わが汝なんぢを[△]愛あいする事ことは、なんぢ識しりたまふ』イエス言いひ給たまふ『わが羊ひつじをやしなへ。[*と△と原語を異にす。] 18 誠󠄃まことに誠󠄃まことに、なんぢに吿つぐ、なんぢ若わかかりし時ときは自みづから帶おびして欲ほっする處ところを步あゆめり、されど老おいては手てを伸のべて他ほかの人ひとに帶おびせられ、汝なんぢの欲ほっせぬ處ところに連󠄃つれゆかれん』 19 是これペテロが如何いかなる死しにて神かみの榮光えいくわうを顯あらはすかを示しめして言いひ給たまひしなり。斯かく言いひて後のちかれに言いひ給たまふ『われに從したがへ』 20 ペテロ振反ふりかへりてイエスの愛あいしたまひし弟子でしの從したがふを見みる。これは曩さきに夕餐󠄃ゆふげのとき御胸みむねに倚よりかかりて『主しゅよ、汝なんぢをうる者ものは誰たれか』と問とひし弟子でしなり。 21 ペテロこの人ひとを見みてイエスに言いふ『主しゅよ、この人ひとは如何いかに』 22 イエス言いひ給たまふ『よしや我われ、かれが我われの來きたるまで留とゞまるを欲ほっすとも、汝なんぢになにの關係かゝはりあらんや、汝なんぢは我われに從したがへ』 23 爰こゝに兄弟きゃうだいたちの中うちに、この弟子でし死しなずと云いふ話はなしつたはりたり。されどイエスは死しなずと言いひ給たまひしにあらず『よしや我われかれが我われの來きたるまで留とゞまるを欲ほっすとも、汝なんぢになにの關係かゝはりあらんや』と言いひ給たまひしなり。

24 これらの事ことにつきて證あかしをなし、又󠄂またこれを錄しるしし者ものは、この弟子でしなり、我等われらはその證あかしの眞󠄃まことなるを知しる。 25 イエスの行おこなひ給たまひし事ことは、この外ほかなほ多おほし、もし一ひとつ一ひとつ錄しるさば、我われおもふに世界せかいもその錄しるすところの書ふみを載のするに耐たへざらん。〘169㌻〙
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